それは――。
「薬草採取?」
「そうよ」
セリナは依頼書を指で叩いた。
「森の中に生えている薬草を集めてくるだけ。危険度も低いし、新人にはちょうどいいと思うわ」
「なるほど!」
ガルドは大きく頷いた。
「じゃあ、行こう!」
「待って」
「なんだ?」
「その大剣、置いていかない?」
「ダメだ」
「即答ね」
ガルドは背中の大剣を軽く叩いた。
「こいつは俺の相棒だからな」
「……まあ、いいけど」
セリナは苦笑した。
こうして二人は、街の外へ向かった。
目的地は、街から少し離れた森。
薬草が多く採れることで知られている場所だ。
森に入ってしばらく歩くと、セリナが足を止めた。
「ほら。あそこ」
「どこだ?」
「あの木の根元。葉っぱが三枚ついてるでしょ」
「……ああ」
ガルドはしゃがみ込む。
「これか?」
「そう。根を傷つけないように採ってね」
「分かった!」
ガルドは薬草を掴んだ。
そして。
「よいしょ!」
ブチッ!
薬草が抜けた。
……土ごと。
「…………」
「…………」
セリナが無言で見つめている。
「採れたぞ!」
「うん……採れたね」
「いっぱい採ったほうがいいのか?」
「依頼では十本よ」
「じゃあ、あと九本だな!」
ガルドは周囲を見回した。
「おっ」
そこにもある。
あっちにもある。
さらにその奥にも。
「いっぱいあるぞ!」
「待って!」
セリナが慌てて止める。
「全部採っちゃダメ!」
「なんでだ?」
「薬草はまた生えてくるけど、根まで抜いたら時間がかかるの!」
「そうなのか」
「そうなの」
「じゃあ、気をつける」
「最初からお願いね」
セリナは苦笑しながら、薬草を一本ずつ採っていく。
その隣で、ガルドも真似をする。
今度は慎重に。
指先で茎をつまみ――。
「……こうか?」
「そうそう」
スポッ。
「…………」
また根っこごと抜けた。
「なんで!?」
「俺、力加減が苦手なんだ」
「それ、冒険者として結構大事な能力なんだけど……」
セリナはため息をついた。
それでも、なんだかおかしくなって笑ってしまう。
「ふふっ」
「どうした?」
「いや。ガルドって面白いなと思って」
「そうか?」
「ええ」
そんなやり取りをしながら、二人は森の奥へ進んでいった。
しばらくすると。
「……ガルド」
「ん?」
「止まって」
セリナの声が変わった。
ガルドも足を止める。
「何かいるのか?」
「ええ」
セリナは背中から弓を取り出した。
森の奥。
木々の間から、低い唸り声が聞こえる。
「魔物ね」
「どんな奴だ?」
「まだ分からない」
セリナが目を細める。
すると。
ガサッ。
茂みが揺れた。
次の瞬間――。
巨大な狼が飛び出してきた。
「ガルド!」
「任せろ!」
ガルドは大剣を抜いた。
狼が牙を剥き、こちらへ飛びかかってくる。
セリナが弓を引く。
だが――。
「待って!」
ガルドが前へ出た。
「俺がやる!」
「え?」
狼の爪が迫る。
ガルドは大剣を構え――。
ガキィンッ!
爪を真正面から受け止めた。
「おお!」
ガルドは嬉しそうに笑う。
「結構強いな!」
「そこ、喜ぶところ!?」
狼がさらに力を込める。
ガルドの足元の土が沈んだ。
「よし」
ガルドは大剣を押し返す。
「今度はこっちの番だ!」
ブンッ!
大剣が振り抜かれる。
狼は咄嗟に横へ飛んだ。
ドゴォン!!
大剣が地面に叩きつけられ、土が大きく跳ね上がる。
「……すごい」
セリナが呟いた。
ガルドは地面にできた大きな跡を見た。
「……ちょっと強く振りすぎたか?」
「ちょっとどころじゃないと思うけど」
狼は警戒するように唸っている。
ガルドは大剣を構え直した。
「来い!」
狼が再び飛びかかる。
今度は――。
一瞬だった。
ガルドが横へ踏み込み、大剣を振る。
ズンッ!!
刀身が狼の胴を捉え、狼は地面を転がっていく。
そして、そのまま動かなくなった。
森が静かになる。
「…………」
「…………」
セリナはしばらく黙っていた。
「ガルド」
「なんだ?」
「今の、何?」
「剣で倒した」
「それは見れば分かるわ」
「じゃあ何だ?」
「……普通の新人冒険者は、あんな大きな魔物を一撃で吹き飛ばさないの」
「そうなのか?」
「そうよ」
ガルドは少し考える。
「でも、倒せたぞ」
「そうね……」
セリナは額に手を当てた。
「まあ、いいわ」
「いいのか?」
「依頼の薬草も集まったし」
セリナが採取袋を見る。
「これなら報酬ももらえるわ」
「本当か!」
ガルドの目が輝いた。
「報酬って肉もあるのか?」
「お金よ」
「……肉は?」
「自分で買って」
「そうか!」
ガルドは倒れた狼を見る。
「じゃあ……」
「……え?」
ガルドは狼を指差した。
「食えるのか?」
「…………」
セリナは数秒黙った。
そして。
「ギルドに聞いてみましょうか」
「おう!」
こうして。
薬草採取のはずだった初依頼は。
なぜか巨大な狼を連れて帰る依頼へと変わった。
――この日、冒険者ギルドに。
新人ガルドについての、妙な噂が広まり始めることになる。
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