冒険者ギルドに戻ってきた俺たちを見て、受付嬢が目を丸くした。
「……おかえりなさい」
「ただいま!」
俺は元気よく答えた。
そして、背中に担いでいたものを床へ下ろす。
ドンッ!!
「…………」
「…………」
ギルド内の空気が止まった。
「……ガルドさん」
「なんだ?」
「それは……?」
「狼だ!」
「それは見れば分かります!」
受付嬢が思わず声を上げた。
俺が持って帰ってきたのは、森で襲ってきた巨大な狼。
普通の狼より一回りどころか、二回り以上大きい。
牙も爪も立派だ。
俺としては、なかなか美味しそうな肉だと思う。
「これ、食えるか?」
「そこですか!?」
「重要だろ?」
「重要……なんでしょうか」
受付嬢が頭を抱える。
すると、周囲にいた冒険者たちが集まってきた。
「おい、これって……」
「ホーンウルフじゃないか?」
「新人が?」
「一人で倒したのか?」
ざわざわと声が広がっていく。
俺はよく分からなかった。
「セリナ、どうした?」
「……ガルド」
「ん?」
「あなた、自分が何を倒したのか分かってる?」
「狼」
「魔物の種類としては?」
「……狼?」
「そうじゃなくて」
セリナは少し呆れたように笑った。
「ホーンウルフ。普通なら、低ランクの冒険者が一人で相手をするような魔物じゃないの」
「そうなのか?」
「そうよ」
「でも、そんなに強くなかったぞ」
「…………」
セリナが黙った。
周囲からも、
「強くなかったって……」
「一撃だったらしいぞ」
「嘘だろ?」
そんな声が聞こえてくる。
俺は首をかしげた。
「一撃じゃなかったぞ」
セリナが驚いた顔をする。
「え?」
「最初の一回は避けられた」
「……ああ」
セリナが納得したように頷く。
「なるほど。そういうことね」
「二回目で当たった」
「…………」
セリナは再び黙った。
受付嬢が恐る恐る尋ねる。
「……二回、剣を振ったんですか?」
「そうだぞ」
「その二回で?」
「うん」
受付嬢の顔が引きつった。
「……すごいですね」
「そうか?」
「はい……」
どうやら、みんな大げさに驚いている。
俺としては、剣を振って魔物を倒しただけなのだが。
そんなことより。
「それで、この狼は食べられるのか?」
俺はもう一度聞いた。
「……確認します」
受付嬢が諦めたように答えた。
「少々お待ちください」
しばらくすると、解体担当の職員がやってきた。
狼を確認し、何度か頷く。
「ホーンウルフの肉ですね。食べられますよ」
「本当か!?」
「ただ、毛皮や牙にも価値があります。状態もかなり良いですね」
「肉は?」
「肉も買い取れます」
「よし!」
俺は拳を握った。
「今日は肉だ!」
「……本当に肉のことしか考えてないのね」
隣でセリナが笑っている。
「だって美味いんだろ?」
「まあ……そうだけど」
「じゃあ問題ないな!」
「何が問題ないのよ」
そんな会話をしていると。
「なあ」
後ろから声がした。
振り返る。
そこには、何人かの冒険者が立っていた。
「お前、本当にその大剣だけなのか?」
「そうだぞ」
「魔法は?」
「使えない」
「弓とか短剣は?」
「使えない」
「じゃあ、あの魔物を大剣だけで?」
「そうだ」
男は信じられないという顔をした。
「……変わった新人だな」
「よく言われる」
「誰に?」
「今、初めて言われた」
「じゃあ、よく言われるって何だよ!」
ギルド内に笑いが起きた。
俺も笑った。
どうやら、冒険者ギルドという場所は面白いところらしい。
その後。
報酬を受け取り、ホーンウルフの肉も買い取ってもらった。
肉はかなりの量になった。
「これ、全部食べていいのか?」
「一人では無理でしょ」
セリナが言う。
「じゃあ、セリナも食べるか?」
「え?」
「一緒に食べればいい」
「……いいの?」
「もちろんだ」
セリナは少しだけ目を丸くして。
「じゃあ、いただこうかな」
そう言って笑った。
俺たちはその日の夜、街の食堂へ向かった。
料理されたホーンウルフの肉が皿に乗って運ばれてくる。
香ばしい匂いが広がった。
「うまそうだ!」
「ふふっ。子供みたい」
「いただきます!」
俺は一口食べる。
「…………!」
思わず目を見開いた。
「うまい!」
「そんなに?」
「うまい!」
俺は夢中で食べ続けた。
セリナも一口食べる。
「……確かに美味しいわね」
「だろ?」
「でも、こんなに食べるとは思わなかった」
「まだ食べられるぞ」
「えっ」
セリナが笑う。
「ガルドって、もしかしてかなり食べる?」
「普通だと思う」
「またそれ?」
「何が?」
「なんでもない」
セリナは楽しそうに笑った。
食事を終え、宿へ戻る道。
セリナがふと口を開いた。
「ねえ、ガルド」
「ん?」
「明日、もう一度依頼を受ける?」
「もちろん!」
「じゃあ、少し難しい依頼を探してみようか」
「肉が出るやつがいい!」
「そこは譲らないのね」
「大事だからな!」
セリナは笑った。
「じゃあ、明日ギルドで探しましょう」
「ああ!」
俺は頷く。
このとき俺はまだ知らなかった。
翌日、ギルドで受けることになる依頼が。
俺たちの冒険を、大きく変えることになるなんて。
そして――。
冒険者ギルドではすでに。
新人冒険者ガルドについて、別の噂が広がり始めていた。
「……あの新人、ホーンウルフを一撃で?」
「しかも、あの大剣を軽々振ってたらしい」
「一体、何者なんだ?」
本人だけが。
その噂をまったく知らなかった。
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