冒険者になる。
それは、ガルドがずっと憧れていたものだった。
剣を振るい、魔物を倒し、困っている人を助ける。
そして、依頼をこなして金を稼ぐ。
――何より。
「肉が食える!」
ガルドは冒険者ギルドの前で、拳を握りしめた。
今日から俺も、冒険者だ。
そう思うだけで胸が高鳴る。
もっとも。
「……その剣、本当に使うんですか?」
受付嬢の視線は、ガルドの背中に向いていた。
「もちろん!」
ガルドが振り返る。
そこにあるのは――一本の大剣。
あまりにも巨大だった。
普通の冒険者が使う剣の二倍。
いや、下手をすれば三倍近くある。
柄だけでも両手でしっかり握らなければならず、刀身は見るからに重そうだ。
床に立てかけているだけなのに、周囲の冒険者たちがちらちらと様子をうかがっている。
「それ……持てるんですか?」
「持てるぞ」
「……振れます?」
「振れるぞ」
「本当に?」
「本当に」
受付嬢は少し困ったような顔をした。
「ですが、冒険者の方でも普通はもう少し扱いやすい武器を……」
「普通の剣だと軽すぎるんだ」
「…………え?」
ガルドは真顔だった。
「剣って、もっと重いものじゃないのか?」
「いえ……普通はそれなりに軽いものです」
「そうなのか?」
ガルドは首をかしげる。
昔からそうだった。
訓練用の剣を持っても軽い。
少し大きめの剣を持っても軽い。
ならば、と大きな剣を選んでいった結果。
最終的に辿り着いたのが、この大剣だった。
ガルドにとっては、ようやく「剣らしい重さ」を感じられる武器だった。
「まあ、本人が使えると言うなら……」
受付嬢は半信半疑のまま、登録用紙を差し出した。
「では、こちらに記入してください」
「分かった!」
ガルドは勢いよくペンを取った。
名前。
年齢。
希望する活動内容。
必要事項を書き終えると、受付嬢が確認する。
「ガルドさんですね。剣士、と」
「そうだ!」
「武器は……大剣」
「そうだ!」
「他に使える武器は?」
「ない!」
「魔法は?」
「使えない!」
「…………」
受付嬢の手が止まった。
「本当に大剣だけですか?」
「大剣だけだ!」
ガルドは胸を張った。
その堂々とした姿を見て、受付嬢は小さく息を吐く。
「分かりました。では、冒険者登録を――」
そのときだった。
ギルドの奥から、木製の訓練用人形が運ばれてきた。
誰かが訓練をするらしい。
ガルドはそれを見つめた。
「……なあ」
「はい?」
「あれ、斬っていいか?」
「え?」
「俺の大剣、ちゃんと使えるって証明したい」
受付嬢が答えるより早く。
ガルドは背中から大剣を抜いた。
――ズンッ。
巨大な刀身が床を離れる。
その瞬間。
ギルド内の空気が変わった。
「おい……」
「なんだ、あの剣……」
「新人か?」
周囲から視線が集まる。
ガルドは気にしない。
ただ、目の前の訓練用人形を見ていた。
「じゃあ、いくぞ」
両手で大剣を握る。
そして。
ブンッ!
大剣が横薙ぎに振り抜かれた。
次の瞬間。
ズバァンッ!!
訓練用人形が、真っ二つになった。
「…………」
「…………」
ギルド内が静まり返る。
ガルドは大剣を肩に担いだ。
「ほら」
受付嬢が固まっている。
「は、はい……」
受付嬢は、なんとか頷いた。
周囲の冒険者たちはざわざわと騒ぎ始める。
「今の見たか?」
「新人だろ?」
「大剣をあんな速度で……?」
「というか、あの訓練用人形って結構頑丈だぞ」
ガルドは首をかしげた。
「なんだ?」
「いや……」
受付嬢が苦笑する。
「ガルドさん」
「ん?」
「あなた、もしかして……かなり強いんじゃないですか?」
「……そうなのか?」
ガルドは本気で分からなかった。
「俺、普通だと思うけど」
「…………」
受付嬢は何も言わなかった。
こうして。
自分の強さをいまひとつ理解していない大剣使い、ガルドは。
冒険者としての第一歩を踏み出した。
――そして、この日。
彼の人生を大きく変えることになる一人の女性が、ギルドに姿を現す。
「すみません。森の薬草採取を受けたいんですけど」
振り返ったガルドの目に映ったのは。
弓を背負い、腰に二本の短剣を携えた、美しい女性だった。
女性はガルドの巨大な大剣を見る。
「……それ、使うの?」
「使うぞ!」
「……重そうね」
「ちょうどいい重さだ!」
「ふふっ。そう」
女性は少し笑った。
「私はセリナ。よろしくね、新人さん」
「俺はガルドだ!」
こうして二人は出会った。
このときガルドは、まだ知らなかった。
目の前の女性とともに。
数え切れないほどの魔物と戦い。
古代遺跡へ挑み。
やがて世界の命運を左右する戦いに巻き込まれていくことを。
そして――。
「ねえ、ガルド」
「なんだ?」
「その大剣、本当に振れるの?」
「振れるぞ!」
「じゃあ、一緒に依頼行ってみる?」
「肉は出るか?」
「……そこ?」
これが。
大剣しか使えない男と、一人の弓使いの。
長い冒険の始まりだった。
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