馬車がゆっくりと町の門をくぐる。
ガルドは荷台から身を乗り出し、目の前に広がる町並みを眺めていた。
「ここが隣町か」
王都ほど大きくはない。
けれど、道の両側には店が並び、行き交う人々の姿も多い。
冒険者らしき者たちもちらほら見える。
ガルドにとっては、初めて訪れる町だった。
「結構、人がいるな」
「そうね。ここは王都と周辺の町をつなぐ街道沿いだから、冒険者も商人も多いのよ」
セリナが説明する。
その隣で、ガルドは別のものを見つけていた。
「……あれは?」
視線の先にあったのは、店先に並べられた焼き肉だった。
香ばしい匂いが、風に乗って流れてくる。
ガルドの目が輝いた。
「肉だ」
「……やっぱりそこなのね」
セリナが苦笑する。
御者席からハンスの声が聞こえてきた。
「ははは! 到着して最初に気になるのが飯か!」
「腹が減ってるからな」
「朝飯も食べてなかったしね」
セリナがそう言うと、ガルドは真剣な顔で頷いた。
「そうだった」
「忘れてたの?」
「依頼に集中してた」
「……食べることも忘れるくらい?」
「いや、途中からずっと腹が減ってた」
セリナは思わず吹き出した。
「それ、集中してたって言わないでしょ」
馬車は町の中央にある広場へと進んでいく。
やがてハンスが馬車を止めた。
「よし。ここで荷物を降ろすぞ」
ガルドも荷台から降りる。
そして、すぐにハンスのところへ向かった。
「ハンス」
「なんだ?」
「この町で、一番うまい肉はどこだ?」
「……到着して最初の質問がそれか」
ハンスは呆れたように笑った。
「この先に冒険者がよく行く酒場がある。飯もかなりうまいぞ」
「本当か?」
「ああ」
「行こう」
「荷物を降ろすのが先だ!」
ハンスの言葉に、ガルドは足を止めた。
「……そうだった」
「忘れるなよ」
ハンスが笑いながら荷物を降ろしていく。
ガルドも手伝おうと荷台へ向かった。
だが――。
「それ、俺が持つ」
ガルドが荷物を一つ持ち上げる。
「お、おい! それは重いぞ!」
ハンスが慌てて声をかける。
しかし、ガルドは何でもないように肩へ担いだ。
「そうか?」
「それ、二人がかりで運ぶ予定だったんだが……」
「じゃあ、こっちも持つか?」
「いや、いい! それ以上は大丈夫だ!」
ハンスは苦笑しながら首を振った。
セリナはそんな二人を見て、くすりと笑う。
「ガルドって、本当に自分の力がどれくらいあるのか分かってないのね」
「普通だと思うけどな」
「普通の人は荷物を片手で持ち上げないのよ」
「そうなのか?」
「そうなの」
やがて、すべての荷物が無事に降ろされた。
ハンスは大きく息を吐く。
「助かったよ。二人とも」
「これくらいなら問題ない」
ガルドはそう言って、再び町の中へ視線を向ける。
そして――。
「ハンス」
「今度はなんだ?」
「肉」
「……分かった。食いに行くか」
「うん」
ガルドの返事だけは、やけに早かった。
ハンスに教えてもらった酒場へ向かう。
店の扉を開けた瞬間、焼いた肉と香辛料の香りが鼻をくすぐった。
「……」
ガルドが立ち止まる。
「どうしたの?」
セリナが振り返る。
「ここだ」
「何が?」
「俺の求めていた場所だ」
「大げさね」
セリナは笑いながら店へ入る。
ハンスも後ろから続いた。
三人で席につくと、ガルドは迷うことなく店員を呼んだ。
「肉を頼む」
「料理名を言ってくださいね」
「一番大きいやつ」
店員が一瞬固まる。
セリナは額に手を当てた。
「ガルド。ちゃんとメニューを見て」
「分かった」
ガルドはメニューを開く。
そして真剣な顔で眺め始めた。
「……これ」
「何?」
「全部、肉だな」
「そうね」
「全部食べていいか?」
「一人で?」
「うん」
セリナは少し考えてから、笑った。
「……食べられるなら、いいんじゃない?」
「分かった」
ガルドは店員に注文を伝える。
ハンスはその様子を見ながら、楽しそうに笑っていた。
「いやぁ、面白い新人を連れてきたもんだ」
「新人だからな」
「そういう意味じゃないんだがな」
やがて料理が運ばれてくる。
焼いた肉。
煮込んだ肉。
串に刺した肉。
大きな皿に盛られた肉。
テーブルの上が、あっという間に肉だらけになった。
「いただきます」
ガルドは嬉しそうに肉を口へ運ぶ。
「……うまい」
その一言に、セリナも笑顔になる。
「そんなにおいしい?」
「ああ」
ガルドは夢中で食べ続ける。
セリナはそんなガルドを眺めながら、自分の料理を口に運んだ。
「ふふっ」
「どうした?」
「なんでもない」
セリナは少しだけ笑った。
こうして三人は、護衛依頼の疲れを癒やしながら、隣町での食事を楽しんだ。
――そして。
食事を終えたガルドたちは、いよいよ冒険者としてこの町を見て回ることになる。
そこでガルドたちを待っていたのは、思いがけない新たな依頼だった。
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