ウルフたちを討伐したあと。
ガルドたちは、再び街道を進んでいた。
「……」
ガラガラ。
馬車の車輪が、一定のリズムで音を立てている。
「……」
ガルドは馬車の隣を歩いていた。
そして――
「腹が減った」
「まだ言ってるの?」
セリナが呆れたように振り返る。
「さっきからずっとじゃない」
「だって減ってる」
「分かったから。もう少し我慢して」
「あとどれくらいだ?」
「隣町までは、まだ半分くらい」
「半分……」
ガルドは街道の先を見る。
「長いな」
「だから朝ご飯を食べてくればよかったのよ」
「……」
ガルドは黙り込む。
「どうしたの?」
「次からそうする」
「うん。それがいいと思う」
セリナは笑った。
そんな二人のやり取りを、ハンスも笑いながら聞いていた。
「君たち……仲がいいな」
「そう?」
セリナが振り返る。
「ええ。息が合っているように見える」
「そうかな」
セリナは少しだけ照れたように笑った。
その横で、ガルドは首を傾げる。
「息?」
「……なんでもないわ」
「そうか」
ガルドは深く考えなかった。
しばらく進んだところで。
馬車が急に速度を落とした。
ガラ……
ガラ……
そして。
ギギッ。
完全に止まった。
「どうした?」
ガルドが足を止める。
ハンスが御者席から降りてくる。
「ちょっと待ってくれ」
「何かあったの?」
セリナも近づく。
「車輪がぬかるみに嵌まったようだ」
街道の一部が、雨で柔らかくなっていた。
馬車の車輪がそこへ入り込み、深く沈んでいる。
「馬だけでは抜けられそうにないな……」
ハンスが困った顔をする。
「押せばいいのか?」
ガルドが言った。
「え?」
ハンスが振り返る。
「馬車を押せば出るんだろ?」
「いや、さすがに人間一人では……」
「やってみる」
ガルドは馬車の後ろへ回った。
「ちょっと待って、ガルド」
セリナが止めようとする。
「危ないわよ」
「大丈夫だ」
ガルドは馬車の後ろに手をつく。
「いくぞ」
「いや、待ってくれ!」
ハンスが慌てる。
だが。
「せーの!」
ガルドが力を込めた。
ギギギギ……。
馬車が揺れる。
「……!」
車輪が少しずつ動き始めた。
ズズッ。
さらに。
ズズズッ。
「お、おい……!」
ハンスが目を見開く。
馬車が前へ進んでいく。
「よし!」
ガルドはさらに力を込めた。
ズズズズズッ!
泥に沈んでいた車輪が、一気に地面から抜けた。
ガタン!
馬車が街道へ戻る。
「……」
沈黙。
ハンスは口を開けたまま固まっている。
セリナも目を丸くしていた。
「……ガルド」
「ん?」
「今、馬車を一人で押した?」
「そうだけど」
「……」
「どうした?」
「いや……」
セリナは額に手を当てた。
「やっぱり、あなたって普通じゃないわね」
「そうか?」
ガルドは首を傾げる。
「馬車、動いたぞ」
「それは見れば分かるわよ!」
セリナが思わず叫ぶ。
「助かったよ」
ハンスが頭を下げる。
「本当にありがとう」
「別にいい」
ガルドは平然としていた。
「それより……」
ガルドが馬車を見る。
「まだ隣町には着かないのか?」
「もう少しだ」
「そうか」
ガルドは安心したように頷いた。
「なら、もう少し我慢する」
セリナが吹き出した。
「ふふっ」
「なんだ?」
「ううん。なんでもない」
セリナは笑いながら歩き始める。
ガルドもその隣を歩く。
「セリナ」
「なに?」
「隣町に着いたら、まず飯だ」
「はいはい」
「肉がいい」
「分かってるわよ」
「できれば大盛り」
「……本当に朝から何も食べてないのね」
「ああ」
「じゃあ、ちゃんと食べなさい」
「ああ!」
ガルドは元気よく答えた。
その様子を見て、セリナはまた笑った。
そして。
街道の先に、少しずつ建物が見えてきた。
「見えてきたわ」
セリナが指を差す。
「町だ」
ガルドの目が輝く。
「飯だ!」
「町ね」
「飯がある」
「……まあ、そうだけど」
ガルドは足取りを速める。
「ちょっと、ガルド!」
「早く行こう!」
「そんなに急がなくても逃げないわよ!」
「肉が待ってる!」
「待ってるのは町だから!」
セリナの声が街道に響く。
ハンスは馬車の上で苦笑した。
「……面白い冒険者たちだな」
こうして。
ガルドとセリナは、初めて訪れる隣町へと入っていった。
そしてガルドはまだ知らない。
この町で、自分たちを待っている新たな依頼のことを。
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