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第12話「新人冒険者、森の主と遭遇する」

 森の奥から聞こえてきた、低い唸り声。

 ガルドとセリナは警戒しながら、ゆっくりと木々の間を進んでいた。

「……近いわね」

 セリナが小声で呟く。

「ああ」

 ガルドは背中の大剣に手をかけた。

 先ほどのグレイウルフたちは、何かに怯えて逃げていった。

 その原因が、この先にいるのだろう。

「ガルド、足元に気をつけて。地面が荒れているわ」

 セリナの言うとおり、木の根元には大きな爪痕が残っていた。

 太い木の幹にも、何かがぶつかったような傷がある。

「ずいぶん力が強そうだな」

「ええ。こんな傷をつけられる魔物なら、かなり危険よ」

「そうか」

 ガルドは少し考えた。

「肉も大きそうだな」

「……今はそこを気にするところじゃないでしょ」

「いや、大事だろ」

「もう……」

 セリナは呆れながらも、小さく笑った。

 いつもどおりのガルドだ。

 けれど、彼女も油断しているわけではない。

 弓を握る手に、自然と力が入っていた。


 さらに奥へ進むと、木々が途切れた場所に出た。

 そこには、広い空き地があった。

 地面はあちこち掘り返され、倒れた木もある。

 そして、その中央に――。

「……いたわ」

 セリナが息を呑んだ。

 大きな魔物が一匹、地面に立っていた。

 全身を覆う茶色の毛。

 太い四本の足。

 そして、額から伸びた二本の黒い角。

 その巨体は、先日倒したホーンウルフよりもさらに大きかった。

「でかいな」

 ガルドが素直な感想を漏らす。

 魔物は二人に気づくと、ゆっくりと顔を向けた。

 鋭い目が、こちらを捉える。

「グルルルル……」

 地面を踏みしめるたび、重たい音が響いた。

 セリナは魔物の姿を観察する。

「見たことがないわ。少なくとも、この辺りにいる魔物じゃないはず……」

「じゃあ、今回の調査対象か?」

「たぶんね。でも、あれは危険よ。刺激しないで、まずは様子を――」

 その瞬間だった。

 魔物が前足で地面を蹴った。

「来るわ!」

 セリナが叫ぶ。

 巨体が一気に突進してきた。

「おおっ!」

 ガルドは横へ跳び、突進をかわす。

 魔物はそのまま走り抜け、背後にあった木へ激突した。

 バキバキッ!

 太い木が大きく揺れ、枝が折れる。

「うわ、すごいな!」

「感心してる場合じゃないわよ!」

 セリナが矢を放つ。

 矢は魔物の肩付近に当たった。

 しかし、分厚い毛皮に弾かれたように落ちてしまう。

「硬い……!」

 魔物がセリナへ向き直った。

「セリナ、下がれ!」

 ガルドが駆け出す。

 魔物が再び突進しようとした、その瞬間。

 ガルドは大剣を両手で握り、地面を強く踏み込んだ。

「止まれっ!」

 大剣を横薙ぎに振るう。

 ドゴォンッ!

 大きな衝撃音が森に響いた。

 魔物の巨体が横へ押し流され、地面を滑っていく。

「……えっ?」

 セリナが目を見開いた。

 あれだけの巨体を、真正面から押し返したのだ。

 普通の冒険者にできることではない。

 だが、ガルドはいつもどおりだった。

「よし。今のは効いたな」

 魔物はゆっくりと立ち上がる。

 怒りをあらわにし、ガルドを睨みつけた。

「グオオオオッ!」

「おっ、まだやるのか!」

「ガルド、油断しないで!」

「ああ!」

 魔物が角を向け、再び突進してくる。

 今度はガルドが真正面から受け止めた。

 大剣の刀身と、魔物の角がぶつかる。

 ガキィンッ!

 激しい音が響いた。

 ガルドの足元の土が抉れる。

 それでも、彼は一歩も引かなかった。

「なかなか力が強いな!」

 ガルドは歯を見せて笑う。

「でも、俺も負けないぞ!」

 全身に力を込める。

 そして――。

「おおおおっ!」

 魔物の巨体が、少しずつ押し戻されていった。

「うそ……」

 セリナは驚きながらも、すぐに動いた。

 ガルドが魔物を押さえている間に、横へ回り込む。

 弓を構え、今度は魔物の足元を狙った。

「ガルド、少しだけ耐えて!」

「任せろ!」

 矢が放たれる。

 魔物の前足近くに矢が突き刺さり、巨体の動きが一瞬鈍った。

 その隙を、ガルドは逃さなかった。

「これで終わりだ!」

 大剣を大きく振り上げる。

 そして、力いっぱい振り下ろした。

 ドォンッ!

 魔物の巨体が地面へ倒れ込んだ。

 土煙が舞い上がる。

 しばらくして、周囲に静けさが戻った。

「……倒した?」

 セリナが慎重に様子を確認する。

 魔物は動かない。

「ああ。倒したみたいだな」

 ガルドは大剣を肩に担いだ。

「強かったな」

「強かったな、じゃないわよ……」

 セリナは大きく息を吐いた。

「こんな魔物、普通は新人冒険者が相手にするものじゃないわ」

「でも、なんとかなったぞ」

「それはガルドが普通じゃないからよ」

「そうなのか?」

「そうなの!」

 セリナは思わず声を上げた。

 ガルドは不思議そうに首を傾げる。

 そして、倒れた魔物を見下ろした。

「ところで、セリナ」

「……今度は何?」

「これ、食べられるかな?」

「…………」

 セリナは空を仰いだ。

「もう、好きにして……」


 その後、二人は魔物の様子を詳しく調べることにした。

 セリナは周囲を警戒しながら、魔物の身体を観察する。

「この魔物、やっぱりおかしいわ」

「どこが?」

「身体に傷があるの。私たちがつけたものじゃないわ」

 セリナが指差した場所には、古い傷跡が残っていた。

 さらに、近くの地面には大きな足跡がいくつも続いている。

 それらは、森のさらに奥へと向かっていた。

「この魔物も、何かから逃げてきたのかしら……」

 セリナが呟く。

 ガルドは足跡の先を見つめた。

「もっと奥に、何かいるのか?」

「その可能性はあるわね」

「じゃあ、行ってみるか?」

「待って。今回の依頼は、あくまで調査よ。これ以上は危険かもしれない」

 セリナは少し考え、首を横に振った。

「まずはこの魔物のことをギルドに報告しましょう。森の奥については、準備を整えてからにしたほうがいいわ」

「分かった」

 ガルドは素直に頷いた。

 そして、もう一度だけ魔物を振り返る。

「……肉、うまいといいな」

「まだ言ってるの?」

「大事なことだからな」

 セリナはとうとう笑い出した。

 二人は魔物の素材を回収し、町へ戻ることにした。

 しかし、森の奥に続く大きな足跡は、まだ誰にも気づかれないまま残されていた。

 この森で起きている異変。

 その原因は、まだ深い森の向こうに隠れている。

 そしてガルドたちは、いずれ再びこの森へ足を踏み入れることになるのだった。

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この記事を書いた人

Web小説書いてます。最強・ファンタジー・冒険・ほのぼの・飯テロが好き。Xアカウントはこちら→

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