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第18話「新人冒険者、冒険の準備をする」

 翌朝。

 宿屋の食堂に、ガルドの元気な声が響いた。

「よし! 今日は準備の日だ!」

「朝から元気ね……」

 向かいに座るセリナは、温かいお茶を飲みながら苦笑した。

 昨日、二人はギルドで北の森の異変について報告した。

 森の奥には、正体不明の大型魔物がいる可能性が高い。

 さらに、周辺では魔物の目撃情報が増えており、商隊にも影響が出始めている。

 次に森へ向かうなら、十分な準備が必要だった。

「今日は食料と薬を買って、道具も確認するわよ。森の奥まで進む可能性があるから、いつもより念入りにね」

「分かった!」

「本当に分かってる?」

「もちろんだ! 食料をたくさん買えばいいんだろ?」

「違うわよ!」

 セリナのツッコミが、食堂に響いた。

 ガルドは不思議そうに首をかしげる。

「食料は大事だろ?」

「大事だけど、それだけじゃないの。傷薬や水、道具の確認も必要でしょう?」

「なるほど。じゃあ、食料と傷薬と水だな!」

「……先が思いやられるわね」

 セリナは小さくため息をついた。

 それでも、こうして出発前に準備を整えること自体は悪くない。

 前回の調査では、森の奥で地面を揺らす音を聞いた。

 正体が分からない以上、何が起きても対応できるようにしておきたい。

「じゃあ、食べ終わったら出発よ」


 二人が最初に向かったのは、冒険者向けの道具を扱う店だった。

 店内には水筒や携帯食料、薬草、傷薬、ロープなどが並んでいる。

 セリナは必要な道具を一つずつ確認していった。

「傷薬はこれくらいあれば十分ね。あとは包帯と、予備の矢も買っておきましょう」

「おお、いろいろあるな」

 ガルドは棚を眺めていた。

 その視線が、ある商品で止まる。

「なあ、これ何だ?」

 手に取ったのは、乾燥肉が詰まった袋だった。

「携帯食料よ。長い移動のときに食べるものね」

「肉じゃないか!」

「ええ、そうね」

「これも買おう!」

 ガルドは袋を手に持ったまま、店主のところへ向かった。

「おじさん、これを十袋!」

「十袋!?」

 セリナが慌てて振り返った。

「ちょっと、ガルド! そんなに必要ないでしょう!」

「でも、森の中で腹が減ったら困るだろ?」

「確かに困るけど……」

「それに、うまそうだぞ!」

「最後の理由が本音でしょう!」

 店主は二人のやり取りを聞きながら、楽しそうに笑った。

「ははは! 兄ちゃん、食べるのが好きなんだな。そいつは日持ちするし、冒険者にも人気だぞ」

「だろ? じゃあ、もう十袋!」

「増やさないで!」

 セリナはガルドの手から袋を取り上げた。

 結局、乾燥肉は三袋だけ購入することになった。

 ガルドは少し不満そうだったが、セリナが買った傷薬や包帯を見て、素直に荷物をまとめ始めた。

「これで準備はばっちりだな!」

「まだよ。剣の状態も確認しておきましょう」

「それなら問題ないぞ!」

 ガルドは背中から大剣を下ろした。

 刀身に目立った傷はなく、柄もしっかりしている。

 前回の戦闘でも問題なく使えていた。

 セリナは刀身を確認し、うなずいた。

「確かに、状態はよさそうね。でも、使う前に確認する癖はつけておいた方がいいわ」

「分かった。毎回確認する!」

「よろしい」

 セリナは満足そうに笑った。

 少なくとも、準備の大切さは伝わったらしい。

 食料の量については、まだ少し不安が残っていたが。


 道具をそろえた二人は、次に肉屋へ向かった。

 店先には、さまざまな魔物の肉が並んでいる。

 ガルドはその光景を見た瞬間、目を輝かせた。

「おおおっ!」

「……分かりやすいわね」

 店主が二人に気づき、声をかけてきた。

「いらっしゃい! 今日は何を買っていくんだ?」

「森に持っていける肉が欲しい!」

「持っていける肉?」

「そうだ! できれば、うまくて、腹にたまって、たくさん食べられるやつ!」

「注文が多いな!」

 店主は豪快に笑った。

「それなら、こいつはどうだ? 塩漬けにしたロックボアの肉だ。焼くだけで食えるし、保存も利くぞ」

 店主が見せたのは、食べやすい大きさに切り分けられた肉だった。

 ガルドは真剣な顔でそれを見つめた。

「……うまそうだ」

「でしょう?」

 セリナも少し興味を持ったようだった。

「これなら森でも食べられそうね」

「よし、それを買おう!」

 ガルドは勢いよくうなずいた。

 しかし、店主が値段を告げると、セリナは財布を確認しながら必要な量を計算した。

「今回は長くても一日で戻る予定だから、これくらいで十分ね」

「えっ、これだけ?」

「十分よ!」

「でも、帰りに腹が減るかもしれないぞ!」

「帰りの分も含めて買っているの!」

 ガルドはしばらく肉を見つめていたが、やがて大きくうなずいた。

「……分かった。帰ってきたら、たくさん食べよう」

「最初からそのつもりでいてちょうだい」

 こうして食料の準備も終わった。

 ガルドは満足そうに荷物を背負った。

 その荷物の中で、乾燥肉の袋がかすかに音を立てた。

「これで、いつ腹が減っても大丈夫だな!」

「だから、食べることばかり考えないの!」


 昼過ぎ。

 二人は冒険者ギルドへ向かった。

 次の調査について、出発前に確認しておきたいことがあったからだ。

 ギルドに入ると、受付の周囲がいつもより騒がしかった。

 何人かの冒険者が集まり、真剣な表情で話し込んでいる。

「何かあったのかしら?」

 セリナがつぶやいた。

 二人が受付へ向かうと、受付嬢がすぐに気づいた。

「あっ、お二人とも。ちょうどよかったです!」

「どうしたんだ?」

 ガルドが尋ねると、受付嬢は一枚の報告書を取り出した。

「先ほど、北の森から戻ってきた冒険者が、新しい目撃情報を報告してくれたんです」

 セリナの表情が引き締まった。

「新しい目撃情報?」

「はい。森の東側、山道に近い場所で、巨大な魔物を見たそうです」

「どんな魔物だったんだ?」

「遠くからだったので、はっきりとは分からなかったそうです。ただ……」

 受付嬢は言葉を切った。

「背中に、黒い鱗のようなものが見えたと言っていました」

 ガルドとセリナは顔を見合わせた。

 黒い鱗。

 それは、二人が森で見つけたものと関係があるのかもしれない。

「その魔物は、何をしていたの?」

 セリナが尋ねる。

「山道の近くを移動していたそうです。目撃した冒険者たちは、危険だと判断して追跡をやめたとのことでした」

「賢明な判断ね……」

 セリナは報告書に目を落とした。

 森の奥にいるかもしれない巨大な魔物。

 周辺から姿を消していく魔物たち。

 そして、黒い鱗。

 少しずつ情報は集まっている。

 だが、肝心の正体はまだ分からない。

「なあ、セリナ」

 ガルドが大剣の柄に手を置いた。

「明日、森に行こう」

「ええ。私もそのつもりよ」

 セリナは受付嬢に向き直った。

「明日、私たちで森の東側を調べてみるわ。ただし、危険な相手と遭遇した場合は、無理に戦わずに引き返す。それでいいかしら?」

「はい。くれぐれも無理はしないでくださいね」

「分かりました」

 受付嬢はほっとしたように笑った。

 ガルドも力強くうなずいた。

「任せてくれ!」

 そして、少し間を置いてから付け加えた。

「ところで、明日の調査が終わったら、肉を食べてもいいんだよな?」

「もちろんよ」

 セリナは即答した。

「ただし、ちゃんと無事に帰ってくること。それが一番大事だからね」

「おう!」

 ガルドは満面の笑みで答えた。

 明日は、北の森の東側を調査する。

 これまでとは違う場所だ。

 何が待っているのかは分からない。

 それでも、準備は整った。

 二人は翌朝の出発を約束し、ギルドを後にした。

 そのころ、北の森のさらに奥では、巨大な影がゆっくりと動いていた。

 黒い鱗が木漏れ日を受け、鈍く光る。

 その足元で、小さな魔物たちが一斉に逃げ出した。

 森の異変は、まだ終わりそうになかった。

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この記事を書いた人

Web小説書いてます。最強・ファンタジー・冒険・ほのぼの・飯テロが好き。Xアカウントはこちら→

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