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第14話「新人冒険者、隣町を満喫する」

 翌朝。

 隣町の宿屋で目を覚ましたガルドは、勢いよくベッドから飛び起きた。

「よし、今日は何を食べよう!」

 起きて最初に考えることがそれだった。

 昨日はブラウンホーンの肉を堪能した。歯ごたえがあり、噛むほどに旨味が広がる最高の肉だった。

 しかし、ガルドの食欲は昨日の夕食程度では満たされない。

 むしろ、おいしい肉を食べたことで、さらに腹が減っているくらいだった。

「……まずは朝飯だな」

 ガルドは大剣を背負い、部屋を出た。

 食堂へ向かうと、ちょうどセリナが朝食を食べているところだった。

「あら、おはよう。今日は早いのね」

「おはよう! 腹が減った!」

「はいはい。聞かなくても分かるわよ」

 セリナは苦笑しながら、向かいの席を指さした。

「今日は町を見て回るんでしょう? その前に、ちゃんと食べておきなさい」

「もちろんだ!」

 ガルドは席に着くなり、店員に朝食を注文した。

 焼きたてのパンに、野菜のスープ、目玉焼き。そして、追加で焼いてもらった厚切りのベーコン。

 料理が運ばれてくると、ガルドはさっそく食べ始めた。

「うまい!」

「本当に幸せそうに食べるわね」

「うまいものを食べてるんだから、幸せに決まってるだろ!」

 あまりにも堂々と言い切るので、セリナは思わず笑ってしまった。

「ふふっ。それもそうね」

 こうして二人の一日は、いつもどおり食事から始まった。

 ただし、今日は魔物退治の依頼を受ける予定はない。

 北の森で見つけた異変については、ギルドに報告済みだ。追加の情報が集まるまでは、無理に森へ入る必要もないだろう。

 たまには町を見て回るのも悪くない。

 セリナはそう考えていた。

 もっとも、ガルドにとって町を巡る最大の目的は、別のところにあったのだが。


 朝食を終えた二人は、町の大通りへと繰り出した。

 通りには露店が並び、あちこちから威勢のいい呼び声が聞こえてくる。

 焼きたてのパンを売る店。

 色鮮やかな果物を並べた店。

 鍋や食器を扱う雑貨屋に、冒険者向けの装備品を売る武具屋。

 王都ほど大きな町ではないが、活気に満ちていた。

「へえ、いろんな店があるんだな!」

 ガルドはきょろきょろと辺りを見回す。

「そうね。こういう町をゆっくり歩くのも、たまにはいいでしょう?」

「ああ! あっちの店、肉を焼いてるぞ!」

「……結局、そこなのね」

 セリナが呆れたように言った瞬間、ガルドはすでに露店へ向かっていた。

 店先では、串に刺した肉が香ばしい音を立てて焼かれている。

「おじさん! それ、何の肉だ?」

「おっ、兄ちゃん。これはロックボアの肉だよ。香辛料をすり込んで焼いてるんだ」

「ロックボア!」

 ガルドの目が輝いた。

「二本くれ!」

「はいよ!」

 受け取った串焼きのうち一本を、ガルドはすぐに頬張った。

「うまい!」

 外側は香ばしく、中は肉汁たっぷりだ。香辛料の風味も食欲を刺激してくる。

 ガルドはあっという間に一本を食べ終えた。

「セリナも食べるか?」

「ええ、いただこうかしら」

 セリナが串を受け取ると、ガルドは残った一本を大事そうに持ちながら、店主に尋ねた。

「このロックボアって、どこで狩れるんだ?」

「町の西にある岩場だな。群れで出ることもあるが、最近は妙に姿を見せなくなってな」

 その言葉に、セリナの表情が少しだけ変わった。

「姿を見せなくなった?」

「ああ。前はこの町の冒険者がよく狩っていたんだが、ここしばらくは目撃情報が減ってる。代わりに、北の森から妙な魔物が出てきたって話もあるくらいだ」

 ガルドとセリナは顔を見合わせた。

 北の森から魔物が移動していたことは、昨日ギルドへ報告したばかりだ。

 西の岩場にいる魔物まで姿を消しているとなると、偶然とは言い切れないかもしれない。

「何か関係があるのかしら……」

「うーん」

 ガルドは少し考えた。

 そして、手元の串焼きを見つめる。

「つまり、ロックボアがいなくなったら、これが食べられなくなるってことか?」

「そこが一番気になるの!?」

 セリナのツッコミが、大通りに響いた。

 店主は腹を抱えて笑っている。

「ははは! 兄ちゃん、気に入ったならまた買いに来な! ロックボアがいなくなっても、ほかの肉はあるからよ!」

「そうなのか! よかった!」

「よくないわよ、もう……」

 セリナは額に手を当てた。

 しかし、笑いながらも頭の片隅では、魔物の動きについて考え続けていた。

 北の森だけではない。

 この周辺の魔物に、何か異変が起きているのかもしれない。


 その後も二人は町を歩き回った。

 武具屋ではガルドの大剣を見た店主が驚き、道具屋ではセリナが薬草や傷薬の補充をした。

 ガルドは大剣の手入れ道具を勧められたものの、店主の説明を聞いているうちに、店の奥に置かれた燻製肉へ視線を奪われていた。

「兄ちゃん、話を聞いてるか?」

「聞いてる! 剣を磨く道具だろ?」

「そうだ。そのために必要なのが――」

「ところで、あの肉は何だ?」

「聞いてねえじゃねえか!」

 店主の怒鳴り声を背に、セリナは笑いをこらえきれなかった。

「ガルドって、本当に変わらないわね」

「何がだ?」

「なんでもないわ」

 セリナは首を振った。

 大剣を軽々と振り回し、強力な魔物を倒す。

 それなのに、食べ物のことになると驚くほど単純になる。

 不思議な男だ。

 けれど、一緒にいると退屈しない。

 むしろ、こうして何でもない時間を過ごすのが、少し楽しいと感じている自分がいた。

「……ねえ、ガルド」

「ん?」

「明日も、こうして一緒に依頼を受ける?」

 何気ない質問のつもりだった。

 だが、口にしてから、セリナは少しだけ返事が気になった。

 ガルドは不思議そうに彼女を見た。

「もちろんだろ。セリナと組むと戦いやすいしな!」

「そ、そう……」

「それに、二人ならいろんな魔物を倒せるだろ? 食べたことのない肉も、まだまだありそうだし!」

「……やっぱり、そこなのね」

 セリナは小さくため息をついた。

 けれど、頬にはほんの少し笑みが浮かんでいた。

「まあ、いいわ。これからもよろしくね、ガルド」

「ああ! よろしくな!」

 ガルドは何のためらいもなく笑った。

 そのまっすぐな笑顔に、セリナは一瞬だけ言葉を失った。

 そして、照れ隠しのように歩き出す。

「ほら、次のお店に行くわよ」

「おう! 次は肉か?」

「違うわよ!」


 昼過ぎ。

 二人は大通りから少し外れた場所にある、小さな広場へやって来た。

 広場の隅には荷車が何台か止まっており、商人たちが忙しそうに荷物を積み込んでいる。

 その中で、ひときわ大きな荷車が目に留まった。

 荷台には頑丈な木箱が積まれている。

 箱の側面には、北の森へ向かう商隊が使う印が描かれていた。

「あれ、何かしら?」

 セリナが目を向ける。

 荷車のそばでは、商人らしき男が二人の作業員に指示を出していた。

「その箱は奥へ! 食料は手前にまとめてくれ!」

 男は忙しそうに動き回っていたが、セリナたちに気づくと、ふと表情を曇らせた。

「……冒険者か?」

「ええ。何か困りごとでも?」

 セリナが尋ねると、男は少し迷ったあと、声を潜めた。

「実はな。北の森を通る予定だった商隊が、ここ数日、次々と予定を変更しているんだ」

「予定を変更?」

「ああ。森の近くで、普段は見かけない魔物が出るようになったらしい。護衛を増やしても危険だと判断した商人もいる」

 セリナの顔から笑みが消えた。

 昨日、二人が森で見つけた足跡。

 森の奥へ向かうように続いていた、大型魔物の痕跡。

 そして、町の西でロックボアの目撃情報が減っているという話。

 それらが少しずつつながり始めていた。

「その話、ギルドには伝えたの?」

「ああ。だが、まだ詳しいことは分かっていないらしい」

 男は困ったように頭をかいた。

「このままじゃ、北へ向かう商売にも影響が出る。何とか原因が分かればいいんだが……」

 セリナはガルドを見た。

 ガルドもまた、珍しく真剣な表情で荷車を眺めていた。

「ガルド?」

「……北の森、もう一度行ってみるか」

 その言葉に、セリナは小さくうなずいた。

「そうね。今度は、もう少し奥まで調べてみましょう」

 ただ魔物を倒すだけでは、異変の原因は分からない。

 けれど、二人なら何かを見つけられるかもしれない。

「よし。じゃあ、その前に――」

 ガルドが勢いよく顔を上げた。

「腹ごしらえだな!」

「……そこは変わらないのね」

 セリナは呆れたように笑った。

 北の森で何が起きているのか。

 その答えは、まだ分からない。

 だが、二人の次の冒険は、少しずつ近づいていた。

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この記事を書いた人

Web小説書いてます。最強・ファンタジー・冒険・ほのぼの・飯テロが好き。Xアカウントはこちら→

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