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第15話「新人冒険者、森の異変を調べる」

 翌朝。

 ガルドは宿屋の食堂で、山盛りの朝食を前に満足そうな顔をしていた。

「やっぱり、冒険に出る前は飯だな!」

「昨日も十分食べていたでしょう?」

 向かいに座るセリナが、呆れたように言った。

「昨日は昨日、今日は今日だ!」

「はいはい。分かったから、ちゃんと食べてね」

 セリナは笑いながら、温かいスープを口に運んだ。

 二人は朝食を終えると、さっそく冒険者ギルドへ向かった。

 昨日、町で聞いた話が気になっていたのだ。

 北の森から魔物が移動している。

 森の近くを通る商隊が、危険を避けて予定を変更している。

 さらに、町の西にある岩場では、ロックボアの目撃情報まで減っているという。

 別々の出来事に見えるが、何か関係があるのかもしれない。

 少なくとも、もう一度調べる価値はあった。


 冒険者ギルドに入ると、朝から多くの冒険者で賑わっていた。

 依頼掲示板の前には人だかりができ、受付では冒険者たちが次々と報告を済ませている。

 ガルドはいつものように掲示板へ向かおうとした。

「待って、ガルド。先に受付で話を聞きましょう」

「ん? 依頼を受けるんじゃないのか?」

「その前に、昨日の話を確認するのよ」

「なるほど。じゃあ、話を聞いてから依頼を受けて、帰りに肉を買えばいいんだな!」

「……どうして最後は肉になるのかしら」

 セリナは小さくため息をつきながら、受付へ向かった。

 受付嬢は二人の姿を見ると、すぐに笑顔で迎えてくれた。

「お二人とも。北の森の件ですね?」

「ええ。昨日、町で気になる話を聞いたの。森の近くを通る商隊が、予定を変更しているらしいわ」

「やはり、その話も耳に入りましたか」

 受付嬢は少し表情を引き締めた。

「実はギルドにも、似たような報告がいくつか届いているんです」

「やっぱり、何かあるんだな」

 ガルドが身を乗り出す。

「はい。ここ数日、北の森の周辺で魔物の目撃情報が増えています。普段なら森の奥にいるはずの魔物が、街道近くまで出てきているそうです」

「森から追い出されてるってことかしら?」

「その可能性はあります。ただ、原因までは分かっていません」

 受付嬢は机の上に地図を広げた。

 北の森。

 その東側には山地があり、西側にはロックボアが生息する岩場がある。

 南には、二人が今いる町へ続く街道が伸びていた。

「こちらが、最近報告のあった場所です」

 受付嬢が指で示した地点には、いくつもの印がつけられていた。

 森の南側。

 西側の岩場。

 そして、東側の山道付近。

「……思っていたより広い範囲ね」

 セリナが地図を見つめた。

「ええ。特定の場所だけで起きているわけではないようです」

「じゃあ、森の中で何かが起きてるのか?」

「可能性は高いと思います。ただし、強力な魔物が移動しているだけなのか、それとも別の原因があるのかは不明です」

 ガルドは腕を組んだ。

 難しい話は得意ではない。

 だが、森で感じたことなら覚えている。

 あの大きな角を持つ魔物には、古い傷があった。

 まるで何かから逃げてきたようにも見えた。

「なあ。その魔物たちって、みんな森の外へ向かってたのか?」

「報告では、その傾向があるようです」

「ふーん……」

 ガルドは地図をのぞき込んだ。

「だったら、森の奥に何かいるのかもしれないな」

 その言葉に、受付嬢とセリナが顔を上げた。

「ガルド、それは私も考えていたわ」

「もちろん、まだ決めつけることはできませんが……」

 受付嬢は地図を片づけながら言った。

「ギルドとしても、原因を調べたいと考えています。お二人には、もう一度北の森の調査をお願いできませんか?」

 セリナはすぐには答えず、地図を見つめた。

 前回は、森の奥で強力な魔物と遭遇した。

 もし、その魔物すら逃げ出すような何かがいるのなら、慎重に行動する必要がある。

「調査の範囲は?」

「前回確認した場所から、少し奥までです。ただし、危険を感じたらすぐに引き返してください。原因を突き止めることより、無事に帰ることを優先してくださいね」

「分かったわ」

 セリナがうなずいた。

 ガルドも力強くうなずく。

「よし! 行こう!」

 そして、すぐに付け加えた。

「帰ってきたら、肉料理を食べよう!」

「……本当に、どんな話をしていても最後はそれなのね」


 調査の準備を終えた二人は、町の北門を抜けた。

 空は晴れており、風も穏やかだった。

 街道を進む途中、何台かの荷車とすれ違った。

 商人たちは以前よりも周囲を警戒しているようで、護衛の冒険者たちも武器に手をかけながら歩いている。

「みんな、警戒しているわね」

「ああ。魔物が出るかもしれないからな」

「そうね。でも、それだけじゃない気がするの」

 セリナは街道の先を見つめた。

「何かを怖がっているというより、何が起きているのか分からないことを不安に思っている。そんな感じがするわ」

「分からないのは、確かに嫌だな」

 ガルドは大剣の柄に手を置いた。

「でも、行ってみれば何か分かるかもしれないだろ?」

「ええ。だから、まずは自分たちの目で確かめるの」

 二人は街道を外れ、北の森へと続く道へ入った。

 木々の間から差し込む日差しは、まだ明るい。

 森の入り口付近には、昨日と同じように魔物の足跡が残っていた。

 しかし、今日は少し違うものも見つかった。

「ガルド、これを見て」

 セリナが地面を指さした。

 そこには、深くえぐれたような跡が続いていた。

 大型の魔物が歩いた痕跡だろうか。

 だが、足跡の形がはっきりしない。

 まるで、重い何かを引きずったようにも見えた。

「でかい魔物の跡か?」

「それも考えられるわ。でも……」

 セリナはしゃがみ込み、地面を注意深く調べた。

「この跡、森の奥から街道の方へ続いているわね」

「じゃあ、こいつも森から出てきたのか」

「そうかもしれない。けれど、普通の魔物の足跡とは少し違うわ」

 ガルドは周囲を見回した。

 鳥の鳴き声が聞こえる。

 風が葉を揺らす音も聞こえる。

 特に変わった様子はない。

 それなのに、森の奥へ目を向けると、なぜか胸の奥がざわついた。

「……なあ、セリナ」

「何?」

「今日は、あんまり魔物の気配がしないな」

 セリナは耳を澄ませた。

 確かに、前回来たときよりも静かだった。

 魔物がいないわけではない。

 だが、普段なら聞こえるはずの鳴き声や、草木をかき分ける音が少ない。

 まるで、森の生き物たちが息を潜めているようだった。

「慎重に進みましょう。何かあったら、すぐに知らせて」

「ああ、分かった」

 二人は武器を構えられるようにしながら、森の奥へ進んだ。

 やがて、木々の間に小さな獣道が見えてきた。

 その先には、折れた枝や倒れた木が散らばっている。

 さらに奥へ続く地面には、無数の足跡が残されていた。

 大型の魔物だけではない。

 小さな魔物の足跡も、同じ方向へ向かっている。

 そして、その先には――。

「……あれ、何だ?」

 ガルドが足を止めた。

 少し離れた木の根元に、黒ずんだ大きな塊が落ちていた。

 セリナは弓を構えたまま、慎重に近づく。

 それは、硬い鱗のようなものだった。

 表面には細かな傷が走り、端の部分は鋭く尖っている。

「魔物の鱗……かしら?」

「ずいぶん大きいな」

 ガルドが手を伸ばしかけると、セリナが慌てて止めた。

「ちょっと、素手で触らないで。何か分からないんだから」

「あ、そうか」

 ガルドは素直に手を引っ込めた。

 セリナは布を取り出し、鱗を慎重に包んだ。

 そのときだった。

 森の奥から、低い音が響いた。

 ゴゴゴゴ……。

 地面が、かすかに揺れた。

 二人は同時に顔を上げる。

 鳥たちが一斉に飛び立ち、木々の向こうで何かが動く気配がした。

 ガルドは大剣を背負い直し、ゆっくりと柄に手をかける。

「……セリナ」

「ええ。聞こえたわ」

 音は一度きりではなかった。

 森のさらに奥から、もう一度、重い響きが伝わってくる。

 何かが動いている。

 しかも、かなり大きな何かが。

 セリナは周囲を警戒しながら、静かに告げた。

「無理はしないで。正体を確認できそうになければ、すぐに戻るわよ」

「ああ。分かってる」

 ガルドはうなずいた。

 その目は、森の奥をまっすぐ見つめていた。

 魔物たちが森から逃げ出している理由。

 街道を行く商人たちが警戒している理由。

 そして、地面を揺らす謎の音。

 その答えは、すぐ近くにあるのかもしれない。

 二人は互いに目配せをすると、音の聞こえた方向へ慎重に歩き始めた。

 森の奥で待ち受けるものが何なのか。

 まだ、知る由もなかった。

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この記事を書いた人

Web小説書いてます。最強・ファンタジー・冒険・ほのぼの・飯テロが好き。Xアカウントはこちら→

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