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第13話「新人冒険者、またしても注目される」

 森を出たガルドとセリナは、町へ向かって歩いていた。

 ガルドの肩には、大剣。

 そして、手には回収した魔物の素材が入った袋がある。

「……なあ、セリナ」

「なに?」

「やっぱり、あの魔物の肉はうまいのかな」

「まだ気にしてたの?」

「気になるだろ。あれだけ大きいんだぞ」

「大きさと味は関係ないと思うけど……」

 セリナは苦笑した。

 森の奥で遭遇した、角の生えた巨大な魔物。

 あれほどの魔物が、なぜ森の奥にいたのか。

 そして、なぜ森の魔物たちが逃げ出していたのか。

 気になることは山ほどある。

 それなのに、ガルドが一番気にしているのは食べられるかどうかだった。

「まあ、ギルドで聞けば分かるか」

「そうね。まずは報告しないと」

 二人は町の門をくぐり、冒険者ギルドへ向かった。


 冒険者ギルドの扉を開けると、昼前だというのに多くの冒険者で賑わっていた。

 受付では依頼の報告をする者が並び、奥のテーブルでは冒険者たちが食事をしながら話をしている。

「お、戻ってきたな」

 受付嬢が二人に気づき、笑顔で声をかけた。

「北の森の調査はどうでしたか?」

「魔物がいたわ」

 セリナが答える。

「やっぱり何か異常が?」

「ええ。森の奥で、見たことのない大型の魔物に遭遇したの」

「見たことのない魔物……ですか?」

 受付嬢の表情が変わった。

 ガルドは素材の入った袋をカウンターに置いた。

「これだ」

「……えっ?」

 受付嬢が袋の中身を確認する。

 そこに入っていたのは、巨大な魔物の角と毛皮の一部だった。

「こ、これは……!」

 受付嬢が目を見開く。

 その声を聞きつけた近くの冒険者たちが、次々と集まってきた。

「なんだなんだ?」

「また何か倒したのか?」

「おい、これって……」

 素材を見た一人の冒険者が、驚いた声を上げた。

「ブラウンホーンじゃないか!」

「ブラウンホーン?」

 セリナが聞き返す。

「ああ。北の森にいるって噂は聞いたことがあるが、実物を見るのは初めてだ」

 冒険者は素材を見つめながら続けた。

「かなり力が強い魔物だぞ。普通なら、複数人で相手をする相手だ」

「そうなんだ」

 ガルドは頷いた。

「強かったぞ」

「強かったぞ、じゃないだろ!」

 冒険者が思わず突っ込む。

「お前たち二人で倒したのか?」

「そうよ」

 セリナが答えた。

「私は動きを止めるのを手伝って、最後はガルドが倒したわ」

「一人で……?」

 周囲がざわめく。

 ガルドは首を傾げた。

「セリナも手伝ってくれたぞ?」

「いや、そういう話じゃなくてだな……」

 冒険者は頭を抱えた。

 まただ。

 この新人は、自分がどれだけ異常なことをしているのか、まるで分かっていない。

「それで、森の様子はどうだったんですか?」

 受付嬢が気を取り直して尋ねた。

 セリナは森で見た足跡や、グレイウルフたちの様子を説明した。

「魔物たちが、森の外へ向かっていたんです」

「外へ?」

「ええ。ブラウンホーンにも古い傷があったわ。何かから逃げていた可能性があると思う」

 受付嬢は真剣な表情で頷いた。

「分かりました。すぐにギルドマスターへ報告します」

「お願いするわ」

「お二人とも、危険な調査をありがとうございました」

 受付嬢が頭を下げる。

 その横で、ガルドが手を挙げた。

「質問がある」

「はい、なんでしょう?」

「ブラウンホーンって、食べられるのか?」

「……」

 受付嬢の動きが止まった。

 セリナは額に手を当てる。

「ガルド……」

「いや、大事なことだろ?」

「まあ、確かに……」

 受付嬢は困ったように笑った。

「ブラウンホーンの肉は食べられますよ。少し硬いですが、きちんと調理すれば美味しいそうです」

「本当か!」

 ガルドの顔が明るくなった。

「よし!」

「素材の買い取りが終わったら、お肉屋さんを紹介しましょうか?」

「頼む!」

 ガルドは勢いよく頷いた。

 周囲の冒険者たちから、どっと笑い声が上がる。

「こいつ、魔物の危険度より味のほうが気になるのかよ!」

「ある意味、大物だな……」

 セリナもつられて笑ってしまった。

 森での緊張が、少しだけ和らいだ。


 その後、二人は討伐した魔物の素材を買い取ってもらった。

 ブラウンホーンの角と毛皮には、それなりの値がついた。

 報酬を受け取ったガルドは、さっそく紹介された肉屋へ向かおうとする。

「セリナ、行こう!」

「はいはい。でも、その前に一つだけ」

「なんだ?」

「今日の依頼は終わったんだから、少し休みましょう?」

「……肉を食べてからでもいいか?」

「もう!」

 セリナは笑いながら、ガルドの背中を軽く叩いた。

 結局、二人は肉屋へ向かうことになった。

 店先には、さまざまな魔物の肉が並んでいる。

 ガルドはその光景を見た瞬間、目を輝かせた。

「すごい……!」

「そんなに嬉しい?」

「ああ。どれも美味そうだ」

 店主が二人に気づき、声をかけてきた。

「いらっしゃい。冒険者かい?」

「そうだ」

「それなら、ちょうどいいものがあるぞ」

 店主は店の奥から、大きな肉の塊を持ってきた。

「今朝、仕入れたブラウンホーンの肉だ。珍しい部位だから、なかなか手に入らないぞ」

「……!」

 ガルドは肉を見つめた。

 セリナは、その横顔を見て笑った。

「買うの?」

「買う」

「即答ね」

「こんなものを見て、買わない理由がないだろ」

 ガルドは報酬の袋を確認し、店主に告げた。

「これをくれ」

「毎度あり!」

 こうしてガルドは、今日の冒険の成果を肉という形でも手に入れたのだった。


 その日の夕方。

 冒険者ギルドでは、森の異変についての話し合いが行われていた。

 ブラウンホーンが森の奥に現れたこと。

 複数の魔物が森の外へ移動していたこと。

 そして、さらに奥へ続く大きな足跡があったこと。

 どれも見過ごせる情報ではなかった。

「北の森で、何かが起きているのは間違いないな」

 ギルドマスターが地図を見つめながら呟く。

「だが、原因が分からない以上、軽々しく冒険者を送り込むわけにもいかん」

 彼はしばらく考えたあと、受付嬢に指示を出した。

「今回の調査に参加した二人には、引き続き連絡を取れるようにしておいてくれ」

「分かりました」

 ギルドマスターは、地図に描かれた北の森を見つめた。

 その奥には、まだ誰も把握していない危険が潜んでいるかもしれない。

 だが、その頃のガルドは――。

「うまい!」

 宿の食堂で、ブラウンホーンの肉料理を頬張っていた。

「明日も食べたいな」

「……明日は少し、町を見て回らない?」

 セリナが呆れたように笑う。

「町にも美味いものがあるのか?」

「あるでしょうね」

「じゃあ、見て回ろう!」

 ガルドは満面の笑みで頷いた。

 こうして、二人の隣町での生活は続いていく。

 森の異変については、まだ分からないことばかりだ。

 けれど、今は焦る必要もない。

 明日は明日で、新しい発見があるだろう。

 そしてガルドにとっては――。

 美味い肉との出会いも、立派な冒険の一つなのだった。

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この記事を書いた人

Web小説書いてます。最強・ファンタジー・冒険・ほのぼの・飯テロが好き。Xアカウントはこちら→

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