町へ戻る道。
ガルドは、倒した巨大な魔物を肩に担いで歩いていた。
その隣をセリナが歩いている。
「ねえ、ガルド」
「なんだ?」
「それ、本当に重くないの?」
「別に」
「……そう」
セリナはもう何も言わなかった。
最初は驚いていた。
けれど、ここ数日のガルドを見ていると、だんだん驚くことにも疲れてくる。
大剣を軽々と振り回す。
巨大な狼を一人で倒す。
馬車を押して動かす。
そして今度は、巨大な魔物を担いで歩いている。
「普通じゃないわね」
「何が?」
「なんでもない」
「そうか」
ガルドは気にせず歩き続けた。
頭の中にあるのは、やはり一つ。
「……肉」
「まだ言ってるの?」
「だって気になるだろ」
「私は魔物の正体のほうが気になるけど」
「それも気になる」
少しだけ間を置いて。
「でも肉も気になる」
「はいはい」
セリナは笑った。
やがて町の門が見えてくる。
門番が二人の姿に気づいた。
「……ん?」
「おい、あれはなんだ?」
「魔物……だよな?」
近づいてくるガルドを見て、門番たちがざわつき始める。
「ちょっと待て!」
一人の門番が駆け寄ってきた。
「その魔物、どうしたんだ?」
「倒した」
「……倒した?」
「ああ」
門番は魔物を見る。
それからガルドを見る。
もう一度、魔物を見る。
「これを……?」
「俺とセリナで」
セリナが頷く。
「そうよ」
「そうか……」
門番はしばらく言葉を失っていた。
「と、とりあえず気をつけて運んでくれ」
「分かった」
ガルドはそのまま歩き出す。
門番は二人の背中を見送りながら呟いた。
「……あんな魔物、どうやって倒したんだ?」
冒険者ギルドへ戻る。
扉を開けた瞬間――。
ギルド内の視線が一斉に集まった。
「……なんだ?」
「おい、あれ……」
「でかすぎないか?」
ガルドが魔物を担いでいる。
それだけで、ギルド内がざわめき始める。
受付嬢も目を丸くした。
「お、お帰りなさいませ……」
「依頼、終わった」
「……はい?」
ガルドは魔物を床へ下ろした。
ドンッ!
大きな音が響く。
「これが討伐した魔物だ」
「……」
受付嬢は魔物を見つめる。
「えっと……」
「この魔物、知ってるか?」
「少々お待ちください!」
受付嬢は慌てて資料を探し始めた。
周囲の冒険者たちも集まってくる。
「なんだ、こいつ?」
「見たことないぞ」
「最近、草原に出たっていう魔物じゃないか?」
「でも、こんなにデカいのか?」
やがて受付嬢が一冊の資料を持って戻ってきた。
「ありました!」
魔物の姿を確認する。
そして、驚いたように声を上げた。
「これは……グランドファングです!」
「グランドファング?」
セリナが聞き返す。
「はい。大型の肉食魔物で、非常に力が強いことで知られています」
受付嬢は説明を続ける。
「この魔物は、普段はもっと北の地域に生息しているはずなんですが……」
「じゃあ、なんで草原に?」
「それが分からないんです」
ギルド内がざわつく。
ガルドはグランドファングを見る。
「強い魔物なのか?」
「はい。討伐ランクで言えば――」
受付嬢が少し言葉を止めた。
「Cランク相当です」
「Cランク……」
セリナが驚く。
ガルドは首を傾げた。
「それって強いのか?」
「新人が簡単に倒せる相手じゃないわよ」
セリナが答える。
「そうなのか」
「そうなの」
ガルドは少し考える。
「でも倒せた」
「だから、それがおかしいのよ」
セリナが苦笑する。
周囲の冒険者たちも、ガルドを見ている。
「新人って言ってたよな?」
「ああ」
「じゃあ、あいつ何者なんだ?」
「大剣一本で倒したのか?」
ガルドはそんな視線を気にすることなく、受付嬢に尋ねた。
「で」
「はい?」
「これ、食べられるか?」
「……」
受付嬢が固まった。
セリナが吹き出す。
「やっぱりそこなのね!」
「大事なことだからな」
受付嬢は困ったように笑った。
「食べられますよ」
「本当か?」
ガルドの目が輝く。
「はい。グランドファングの肉は、かなり美味しいことで知られています」
「……!」
ガルドが魔物を見る。
「最高だな」
その瞬間。
周囲の冒険者たちから笑い声が起こった。
「こいつ、本当に肉のことしか考えてないのかよ!」
「Cランク魔物を倒して最初に気にするのが肉か!」
ガルドは不思議そうに周囲を見る。
「なんで笑ってるんだ?」
「気にしなくていいわ」
セリナが笑いながら答えた。
「あなたはそのままでいいと思う」
「そうか?」
「うん」
受付嬢も笑顔になる。
「では、討伐報酬と素材の買い取りについて説明しますね」
「肉は?」
「もちろん、肉も買い取れます」
「……自分で食べたい」
「では、一部をお渡しできますよ」
「頼む」
ガルドは即答した。
こうして、隣町での初めての討伐依頼は無事に終了した。
だが――。
ギルドには、別の問題が残っていた。
なぜ本来この地域にいないはずのグランドファングが、草原に現れたのか。
その理由を調べるため、ギルドは新たな調査を始めることになる。
そしてガルドたちは――。
その調査に関わることになるのだった。
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