巨大な魔物が、草原を駆けてくる。
地面が揺れるほどの巨体。
鋭い牙を持ち、四本の足で一気に距離を詰めてくる。
「ガルド、右!」
セリナが叫ぶ。
「分かった!」
ガルドは大剣を構えたまま、横へ飛ぶ。
直後。
魔物の巨体が、ガルドのいた場所を通り過ぎた。
ズドンッ!
地面が大きくえぐれる。
「……すごい威力ね」
セリナが呟く。
「当たったら痛そうだな」
「痛いどころじゃないと思うけど」
ガルドは魔物を見据える。
「セリナ、あいつは任せていいか?」
「え?」
「俺が近づくまで、止めてくれ」
「分かった!」
セリナは弓を構える。
矢を一本。
素早く放つ。
ヒュッ!
矢は魔物の足元へ突き刺さった。
魔物が一瞬だけ動きを止める。
「今よ!」
ガルドが駆け出す。
大剣を両手で握り、一直線に距離を詰めていく。
魔物がガルドに気づき、向きを変える。
大きな口が開いた。
「ガアアアッ!」
「でかい口だな」
ガルドは大剣を振り上げる。
「でも――」
力を込める。
「肉はうまそうだ!」
ズドンッ!
大剣が魔物の身体に叩き込まれる。
巨大な身体が横へ吹き飛んだ。
「えっ……」
セリナが目を見開く。
魔物は地面を何度も転がり、ようやく止まった。
だが、まだ立ち上がろうとしている。
「まだ動くか」
ガルドは大剣を構え直す。
魔物が唸り声を上げながら立ち上がった。
「ガアアアッ!」
「もう一回だな」
ガルドが踏み込む。
魔物も同時に飛びかかってきた。
真正面からぶつかる。
ガルドは大剣を横薙ぎに振った。
「おおおっ!」
ドゴンッ!
大剣が魔物を捉える。
巨体が宙に浮き、そのまま遠くへ吹き飛んでいった。
草原を転がり、土煙が上がる。
そして――。
動かなくなった。
静かになった草原。
ガルドは大剣を肩に担いだ。
「倒したな」
「……うん」
セリナは呆然としながら頷いた。
「ガルド」
「なんだ?」
「今の魔物、かなり大きかったわよね?」
「ああ」
「かなり強かったと思うんだけど」
「そうなのか?」
「……たぶん」
セリナは深く息を吐いた。
「あなた、本当に自分がどれくらい強いのか分かってないのね」
「そう言われてもな」
ガルドは倒れた魔物へ近づいていく。
そして、その身体をじっと見る。
「セリナ」
「なに?」
「これ、食えるか?」
「……」
セリナは一瞬、言葉を失った。
「結局それなのね」
「大事なことだろ?」
「まあ……そうだけど」
セリナも魔物へ近づく。
鋭い牙。
厚い毛皮。
かなり大きな身体。
「見たことのない魔物ね」
「じゃあ、ギルドに聞けば分かるか」
「そうね。依頼の調査対象でもあるし」
ガルドは魔物を見ながら頷いた。
「じゃあ、持って帰ろう」
「持って帰るの?」
「肉になるかもしれない」
「……そう言うと思った」
セリナは苦笑する。
しかし、次の瞬間。
ガルドは魔物の身体を軽々と持ち上げた。
「えっ?」
「どうした?」
「いや……それ、持てるの?」
「持てるぞ」
「……そう」
セリナはもう驚くのを諦めた。
こうして二人は、謎の巨大な魔物を担いで町へ戻ることになった。
もちろん――。
ガルドの頭の中にあるのは、ただ一つ。
「どんな味なんだろうな」
「まだ食べられるって決まってないわよ」
「食べられるといいな」
セリナは笑った。
「本当に、あなたって食べることが好きなのね」
「うまいものは好きだ」
草原を歩く二人。
その手には、今回の依頼で倒した巨大な魔物。
そして、この魔物が何者なのか。
なぜ最近になって草原に現れたのか。
その答えを知るのは――町の冒険者ギルドだった。
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