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第5話「新人冒険者、馬車を押す」

 ウルフたちを討伐したあと。

 ガルドたちは、再び街道を進んでいた。

「……」

 ガラガラ。

 馬車の車輪が、一定のリズムで音を立てている。

「……」

 ガルドは馬車の隣を歩いていた。

 そして――

「腹が減った」

「まだ言ってるの?」

 セリナが呆れたように振り返る。

「さっきからずっとじゃない」

「だって減ってる」

「分かったから。もう少し我慢して」

「あとどれくらいだ?」

「隣町までは、まだ半分くらい」

「半分……」

 ガルドは街道の先を見る。

「長いな」

「だから朝ご飯を食べてくればよかったのよ」

「……」

 ガルドは黙り込む。

「どうしたの?」

「次からそうする」

「うん。それがいいと思う」

 セリナは笑った。

 そんな二人のやり取りを、ハンスも笑いながら聞いていた。

「君たち……仲がいいな」

「そう?」

 セリナが振り返る。

「ええ。息が合っているように見える」

「そうかな」

 セリナは少しだけ照れたように笑った。

 その横で、ガルドは首を傾げる。

「息?」

「……なんでもないわ」

「そうか」

 ガルドは深く考えなかった。


 しばらく進んだところで。

 馬車が急に速度を落とした。

 ガラ……

 ガラ……

 そして。

 ギギッ。

 完全に止まった。

「どうした?」

 ガルドが足を止める。

 ハンスが御者席から降りてくる。

「ちょっと待ってくれ」

「何かあったの?」

 セリナも近づく。

「車輪がぬかるみに嵌まったようだ」

 街道の一部が、雨で柔らかくなっていた。

 馬車の車輪がそこへ入り込み、深く沈んでいる。

「馬だけでは抜けられそうにないな……」

 ハンスが困った顔をする。

「押せばいいのか?」

 ガルドが言った。

「え?」

 ハンスが振り返る。

「馬車を押せば出るんだろ?」

「いや、さすがに人間一人では……」

「やってみる」

 ガルドは馬車の後ろへ回った。

「ちょっと待って、ガルド」

 セリナが止めようとする。

「危ないわよ」

「大丈夫だ」

 ガルドは馬車の後ろに手をつく。

「いくぞ」

「いや、待ってくれ!」

 ハンスが慌てる。

 だが。

「せーの!」

 ガルドが力を込めた。

 ギギギギ……。

 馬車が揺れる。

「……!」

 車輪が少しずつ動き始めた。

 ズズッ。

 さらに。

 ズズズッ。

「お、おい……!」

 ハンスが目を見開く。

 馬車が前へ進んでいく。

「よし!」

 ガルドはさらに力を込めた。

 ズズズズズッ!

 泥に沈んでいた車輪が、一気に地面から抜けた。

 ガタン!

 馬車が街道へ戻る。

「……」

 沈黙。

 ハンスは口を開けたまま固まっている。

 セリナも目を丸くしていた。

「……ガルド」

「ん?」

「今、馬車を一人で押した?」

「そうだけど」

「……」

「どうした?」

「いや……」

 セリナは額に手を当てた。

「やっぱり、あなたって普通じゃないわね」

「そうか?」

 ガルドは首を傾げる。

「馬車、動いたぞ」

「それは見れば分かるわよ!」

 セリナが思わず叫ぶ。


「助かったよ」

 ハンスが頭を下げる。

「本当にありがとう」

「別にいい」

 ガルドは平然としていた。

「それより……」

 ガルドが馬車を見る。

「まだ隣町には着かないのか?」

「もう少しだ」

「そうか」

 ガルドは安心したように頷いた。

「なら、もう少し我慢する」

 セリナが吹き出した。

「ふふっ」

「なんだ?」

「ううん。なんでもない」

 セリナは笑いながら歩き始める。

 ガルドもその隣を歩く。

「セリナ」

「なに?」

「隣町に着いたら、まず飯だ」

「はいはい」

「肉がいい」

「分かってるわよ」

「できれば大盛り」

「……本当に朝から何も食べてないのね」

「ああ」

「じゃあ、ちゃんと食べなさい」

「ああ!」

 ガルドは元気よく答えた。

 その様子を見て、セリナはまた笑った。


 そして。

 街道の先に、少しずつ建物が見えてきた。

「見えてきたわ」

 セリナが指を差す。

「町だ」

 ガルドの目が輝く。

「飯だ!」

「町ね」

「飯がある」

「……まあ、そうだけど」

 ガルドは足取りを速める。

「ちょっと、ガルド!」

「早く行こう!」

「そんなに急がなくても逃げないわよ!」

「肉が待ってる!」

「待ってるのは町だから!」

 セリナの声が街道に響く。

 ハンスは馬車の上で苦笑した。

「……面白い冒険者たちだな」

 こうして。

 ガルドとセリナは、初めて訪れる隣町へと入っていった。

 そしてガルドはまだ知らない。

 この町で、自分たちを待っている新たな依頼のことを。

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この記事を書いた人

Web小説書いてます。最強・ファンタジー・冒険・ほのぼの・飯テロが好き。Xアカウントはこちら→

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