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第4話「新人冒険者、初めての護衛依頼」

 翌朝。

「ガルド、起きてる?」

 宿の部屋の扉を、コンコンと叩く音がした。

「……ん?」

 ベッドの上で眠っていたガルドが、ゆっくりと目を開ける。

「ガルド。もう朝よ」

 扉の向こうから聞こえてくるのは、セリナの声だった。

「朝……?」

 ガルドはぼんやりと呟く。

 昨日はホーンウルフの肉をたらふく食べた。

 そのせいか、いつも以上によく眠れた気がする。

「そう。昨日、今日も依頼を受けようって言ったでしょう?」

「ああ……そうだった」

 ガルドは勢いよく起き上がった。

「ちょっと待ってくれ!」

「ええ」

 急いで身支度を整える。

 壁に立てかけていた大剣を手に取り、そのまま部屋を出た。

「おはよう、セリナ」

「おはよう」

 セリナがガルドの顔を見て、少し首を傾げる。

「……ガルド」

「なんだ?」

「朝ご飯は?」

「食べてない」

「やっぱり」

 セリナは呆れたように息を吐いた。

「起きてすぐ来たの?」

「ああ」

「もう……。冒険者だって体が資本なんだから、ちゃんと食べないと駄目よ」

「でも、依頼があるんだろ?」

「そうだけど」

「なら、先にギルドへ行こう」

 ガルドは大真面目だった。

 セリナは少しだけ笑う。

 二人は宿を出て、冒険者ギルドへ向かった。


 ギルドへ入った瞬間。

 何人かの冒険者が、ガルドを見る。

「あ、昨日の……」

「ホーンウルフを持って帰ってきた新人だ」

「大剣一本で倒したっていう……」

「二回振っただけらしいぞ」

「マジかよ……」

 昨日の噂が、もう広がっている。

 ガルドは周囲の視線を気にすることなく、受付へ向かった。

「おはようございます」

「お、おはようございます、ガルドさん」

 受付嬢が笑顔で応える。

「今日も依頼を受けたい」

「はい。昨日のホーンウルフの件で、かなり話題になっていますよ」

「そうなのか?」

「はい」

「なぜだ?」

 受付嬢は一瞬だけ黙った。

「……いろいろです」

「そうか」

 ガルドは特に気にしなかった。

「それで、何かいい依頼はあるか?」

「そうですね……」

 受付嬢が依頼書を確認する。

「昨日は薬草採取でしたよね」

「ああ」

「今日は討伐依頼もありますよ」

「討伐がいい」

 ガルドが即答する。

「魔物を倒せば、肉が手に入るからな」

「……やっぱりそこですか」

 受付嬢が苦笑する。

 その横で、セリナが依頼掲示板を眺めていた。

「ガルド、これなんてどう?」

 セリナが一枚の依頼書を手に取る。

「護衛?」

 ガルドが覗き込む。

「ええ。街の北門から、隣町まで商人の馬車を護衛する依頼」

「隣町まで?」

「そう。報酬も悪くないし、街道を使うから危険度もそこまで高くないみたい」

 受付嬢も頷く。

「はい。初心者でも受けられる護衛依頼です」

「魔物は出るのか?」

「可能性はあります。ただ、最近はそれほど多くありません」

 ガルドは依頼書を見る。

 護衛。

 隣町。

 半日ほどの道のり。

 そして――

「隣町なら、向こうの料理も食べられるのか?」

 セリナが一瞬黙った。

「……そこ?」

「大事だろ」

「まあ……大事だけど」

 セリナは思わず笑ってしまう。

「じゃあ、これにしましょうか」

「ああ」

 ガルドは満足そうに頷いた。

「決まりだな」


 北門。

 集合場所へ向かうと、すでに一台の大きな馬車が停まっていた。

 馬車の隣には、少し恰幅のいい男が立っている。

「君たちが護衛の冒険者か?」

「はい」

 セリナが答える。

「私はセリナ。こちらはガルドです」

「私は商人のハンスだ。よろしく頼む」

 ハンスは二人に頭を下げる。

 そしてガルドを見る。

 正確には――

 ガルドの背負っている大剣を見る。

「……それ、武器か?」

「剣だ」

「見れば分かるが……」

 ハンスは苦笑する。

「ずいぶん大きいな」

「普通だ」

「普通ではないと思うが……」

 セリナが横から言う。

「この人にとっては普通みたいです」

「なるほど……」

 ハンスは納得したような、していないような顔をした。

「今回運ぶのは食料品と日用品だ。隣町まで半日ほどの道のりになる」

「分かった」

 ガルドが頷く。

「任せてくれ」

「頼もしいな」

 ハンスが笑う。

 そして馬車が動き始めた。

 ガラガラと車輪が街道を進んでいく。

 しばらくは何事もなかった。

 天気もいい。

 道も平坦。

 魔物の気配もない。

「平和ね」

 セリナが歩きながら言う。

「ああ」

 ガルドも周囲を見回す。

 そして。

「……腹が減った」

「でしょうね」

 セリナは即答した。

「朝ご飯食べてないんだから」

「そうだった」

「忘れてたの?」

「ああ」

「もう……」

 セリナは苦笑する。

「街道を進んで、休憩できそうな場所があったら何か食べましょう」

「分かった」

 ガルドが頷く。

「できれば肉がいい」

「朝から?」

「朝だからだ」

「その理屈はよく分からないわ」

 セリナが笑った。

 そのときだった。

 ガサッ。

 前方の草むらが揺れた。

 セリナの表情が変わる。

「……止まって」

 ガルドも足を止める。

 草むらの奥から、低い唸り声が聞こえてきた。

「魔物か?」

「たぶん」

 ガルドが大剣に手をかける。

「何体いる?」

「まだ分からない」

 次の瞬間。

 草むらから、一匹のウルフが飛び出してきた。

「ウルフ!」

 ハンスが声を上げる。

 さらに二匹。

 三匹。

 合計で五匹ほどのウルフが街道へ姿を現した。

 セリナが弓を構える。

「ガルド、右!」

「分かった!」

 ヒュッ!

 セリナの放った矢が、一匹のウルフの足元へ突き刺さる。

 ウルフが怯んだ。

 その隙にセリナが走り込む。

 腰から短剣を抜く。

「はっ!」

 飛びかかってきたウルフを身をひねってかわし、そのまま横から斬りつける。

 ウルフが地面へ転がった。

「ガルド!」

「任せろ!」

 ガルドが大剣を構える。

 二匹のウルフが同時に飛びかかってきた。

「せいっ!」

 ブンッ!

 大剣が横薙ぎに振り抜かれる。

 ドンッ!

 二匹のウルフが吹き飛び、地面を転がった。

「……」

 セリナが目を丸くする。

「相変わらずね……」

「まだいるぞ!」

 残ったウルフが一斉に逃げ出した。

「待て!」

 ガルドが追いかける。

「ガルド!?」

 セリナが慌てて叫ぶ。

 だが、ガルドは止まらない。

「待て!」

「逃げてるんだから追わなくていいでしょ!」

「駄目だ!」

「なんで!?」

 ガルドは本気だった。

 そして数十メートル走ったところで、逃げるウルフの前へ回り込む。

「捕まえた」

「……速すぎるでしょ」

 追いついたセリナが息を整えながら呟く。

 ガルドは大剣を肩に担ぐ。

「セリナ」

「なに?」

「こいつら、食べられるかな?」

「……たぶん食べられると思うけど」

「よし」

 ガルドの顔が明るくなる。

 セリナは思わず吹き出した。

「本当に、食べ物のことになると元気ね」

「大事だからな」

「はいはい」

 こうして、街道に現れたウルフたちは討伐された。

「……君たち、本当に新人なのか?」

 馬車へ戻ると、ハンスが呆れたような顔で二人を見る。

「新人だ」

 ガルドが答える。

「昨日、ホーンウルフを倒したという話も聞いたが……」

「それよりは弱かった」

「そういう問題なのか……?」

 ハンスは頭を抱えた。

 一方、セリナはガルドの大剣を見る。

「ねえ、ガルド」

「ん?」

「あなた、本当にその大剣一本でやっていくつもり?」

「ああ」

「弓とか、短剣とか。使ってみたいと思わない?」

「思わないな」

「どうして?」

 ガルドは少し考える。

 そして、当たり前のように答えた。

「大剣が一番しっくりくるから」

「……そう」

 セリナは笑った。

「じゃあ、これからもその大剣で頑張りましょうか」

「ああ」

 二人は再び歩き始める。

 街道の先には、まだ見たことのない隣町がある。

 そしてガルドは――

「……腹が減った」

 また同じことを呟いた。

 セリナは思わず笑う。

「さっき食べるって言ったでしょう?」

「早く食べたい」

「はいはい。もう少し我慢してね」

 二人の初めての護衛依頼は、まだ始まったばかりだった。

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この記事を書いた人

Web小説書いてます。最強・ファンタジー・冒険・ほのぼの・飯テロが好き。Xアカウントはこちら→

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