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第26話「新人冒険者、護衛依頼で予想外の相手と出会う」

 翌朝。

「ガルド、起きてる?」

 宿屋の部屋の扉を、セリナが軽く叩いた。

「起きてるぞ!」

 すぐに返事があった。

 扉を開けると、ガルドはすでに大剣を背負い、出発の準備を整えていた。

「今日は早いのね」

「朝飯を食べたからな!」

「……それ、早いことと関係ある?」

「腹が満たされると元気が出る!」

 ガルドは満面の笑みで答えた。

 セリナは苦笑した。

 昨日は町を歩き回り、屋台を巡り、最後には食堂で夕食までしっかり食べた。

 それだけ動いたのだから、今日はゆっくり寝ているかと思っていたのだが。

「今日は何か依頼を受けるの?」

「おう! せっかく冒険者になったんだ。いろんな依頼をやってみたい!」

「そうね。じゃあ、まずはギルドに行きましょう」

「分かった! ……ところで、朝飯はもう食べたか?」

「あなたは食べたでしょう!」

「いや、セリナが食べたか気になってな!」

「私は食べたわよ」

「そうか! よかった!」

 何がよかったのかは分からなかったが、ガルドは納得したように頷いた。

 二人は宿屋を出て、冒険者ギルドへ向かった。


 冒険者ギルドは、朝から多くの冒険者で賑わっていた。

 依頼掲示板の前では、冒険者たちが仲間と相談しながら紙を選んでいる。

「さて、今日はどんな依頼があるかしら」

 セリナが掲示板を見渡す。

 薬草採取、荷物運び、街道の巡回、魔物の討伐。

 いつも通りの依頼が並んでいた。

 その中で、ガルドの目が一枚の依頼書に止まった。

「おっ、これなんかどうだ?」

 依頼書には、こう書かれていた。

『北西の街道を通る荷馬車の護衛。目的地はリンド村。所要時間は片道半日程度。道中の安全確保を希望』

「リンド村……ここから少し離れた村ね」

 セリナが依頼書を読み込む。

「報酬はそこそこ。危険度も高くないみたい」

「護衛か! 前にもやったな!」

「そうね。あのときは狼が出たけれど」

「狼か……肉がうまかったな!」

「依頼の感想がそれなの?」

 セリナは呆れたように笑った。

 だが、護衛依頼自体は悪くない。

 街道の様子を知ることもできるし、村に行けば町とは違った食べ物に出会えるかもしれない。

「よし、これにしよう!」

「ええ。受けましょう」

 二人は依頼書を受付へ持っていった。

 受付嬢は書類を確認し、説明を始める。

「今回の依頼主は、リンド村で農具や生活用品を扱っている商人の方です。荷物を積んだ馬車で村へ戻る予定なので、道中の護衛をお願いします」

「魔物は出るのか?」

 ガルドが尋ねる。

「街道そのものは比較的安全ですが、最近は小型の魔物が出ることもあるそうです。ただ、今のところ大きな被害は報告されていません」

「分かった!」

「……もう少し詳しく聞いてから返事をしましょうね」

 セリナが横から口を挟んだ。

 受付嬢は微笑んだ。

「依頼主は町の北門で待っています。詳しい話は、そちらで聞いてください」

 二人は礼を言い、北門へ向かった。


 北門の近くには、一台の荷馬車が停まっていた。

 馬車のそばに立っていたのは、日に焼けた顔の中年男性だった。

 背はそれほど高くないが、腕は太く、長年荷物を運んできたことがうかがえる。

「あなたたちが、護衛を引き受けてくれた冒険者か?」

「そうだ! 俺はガルド!」

「私はセリナです。よろしくお願いします」

「俺はマルコだ。リンド村で商売をしている」

 マルコは二人を見て、少しだけ眉を上げた。

 ガルドの背負う大剣が、やはり目立つのだろう。

「ずいぶん大きな剣だな……それを使うのか?」

「おう!」

「……そうか。まあ、頼りにしているよ」

 マルコは一瞬だけ不安そうな顔をしたが、すぐに気を取り直した。

「荷物は農具や布、それに保存食だ。村で待っている人たちがいるから、できれば今日中に届けたい」

「分かりました。道中は私たちが警戒します」

 セリナが答える。

「助かる。では、出発しよう」

 マルコが御者席に乗り、手綱を握った。

 ガルドとセリナは馬車の前後を確認し、街道へ出る。

 町の門を抜けると、穏やかな風が吹き抜けた。

 街道の両側には草原が広がり、遠くには低い丘が連なっている。

「いい天気だな!」

 ガルドが大きく伸びをした。

「そうね。こういう日は移動もしやすいわ」

「帰りには何かうまいものが見つかるかな?」

「まだ村にも着いていないでしょう?」

「だから、楽しみにしてるんだ!」

 セリナは小さく笑った。

 御者席のマルコも、二人の会話を聞いて微笑んでいた。

「リンド村は野菜がうまいぞ。畑が多くてな。特に、甘みの強いカブは評判なんだ」

「カブ!」

 ガルドの目が輝いた。

「肉じゃないけど、うまいぞ。煮込むと、とろとろになる」

「煮込む……!」

「ガルド、まだ話の途中よ」

「すまん! つい想像してしまった!」

 セリナは額を押さえた。

 この調子なら、村に着く前から食事の話で盛り上がりそうだった。

 だが、しばらく進んだところで、セリナの表情が変わった。

「……待って」

 彼女が手を上げる。

 馬車がゆっくりと止まった。

「どうした?」

 マルコが尋ねる。

 セリナは街道の先をじっと見つめていた。

「何かいるわ」

 草むらが揺れた。

 風のせいではない。

 草の奥から、低い唸り声が聞こえてくる。

 ガルドは大剣の柄に手をかけた。

「魔物か?」

「たぶんね。マルコさん、馬車から離れないでください」

「あ、ああ……!」

 次の瞬間、草むらから三体の魔物が飛び出した。

 灰色の毛並みを持つ、犬ほどの大きさの魔物。

 鋭い爪と大きな前歯が目立つ。

「グラスファングだわ!」

 セリナが叫んだ。

「草原に住む小型の魔物よ。群れで動くことが多いの!」

「三匹か! ちょうどいいな!」

「何がちょうどいいのよ!」

 グラスファングたちは馬車を狙っているらしい。

 一体が馬の前へ回り込み、残りの二体が左右から迫ってきた。

「セリナ、左を頼む!」

「任せて!」

 セリナは弓を構え、馬車の左側へ回り込もうとした一体の進路を矢で遮った。

 矢は魔物の足元の地面に突き刺さる。

 驚いたグラスファングが足を止めた瞬間、セリナは距離を詰め、短剣でその動きを牽制した。

 一方、ガルドへ向かってきた二体は、左右に分かれて同時に飛びかかった。

「おっと!」

 ガルドは一歩後ろへ下がり、片方の攻撃をかわす。

 もう一体が横から迫る。

 大剣を振り回すには少し近い。

 しかし、ガルドは慌てなかった。

 剣の柄を握り直し、刃の側面で魔物の体を受け止める。

 そのまま腕を動かし、勢いを利用して横へ弾き飛ばした。

「よし!」

 体勢を崩した魔物が草地を転がる。

 残る一体は、仲間が吹き飛ばされたのを見て一瞬ひるんだ。

 その隙を、ガルドは逃さなかった。

 大剣を振り下ろす。

 刃は魔物のすぐ横の地面を叩き、轟音とともに土を跳ね上げた。

 驚いたグラスファングは、慌てて飛び退いた。

「おお、逃げるのか?」

 ガルドが首を傾げる。

「逃がしていいわ! 馬車から遠ざけて!」

「分かった!」

 ガルドはわざと街道から離れるように動き、魔物たちを馬車から引き離した。

 セリナも矢で進路を制限する。

 やがて、三体は互いに顔を見合わせると、草むらの奥へと走り去っていった。

 戦闘は、あっという間に終わった。

「終わったか?」

 マルコが、おそるおそる御者席から声をかけた。

「おう! もう大丈夫だ!」

 ガルドは大剣を肩に担いだ。

「怪我はありませんか?」

 セリナが馬の様子を確認する。

 幸い、馬も荷物も無事だった。

「助かった……! あんな魔物が出るとは思わなかったよ」

「街道ではよく出るんですか?」

 セリナが尋ねると、マルコは首を横に振った。

「いや、普段はほとんど見ない。グラスファングはもっと草原の奥にいるはずなんだが……」

 その言葉に、セリナはわずかに表情を曇らせた。

 最近、魔物の出没場所が変わっている。

 北の森や東の山道だけではない。

 この街道でも、普段は見かけない魔物が現れ始めているのだろうか。

 ガルドも、草むらの奥を見つめた。

「何かに追い出されたのかな?」

「……その可能性はあるわね」

 セリナが答えた。

 けれど、今は護衛依頼の途中だ。

 ここで深追いするわけにはいかない。

「まずは村まで荷物を届けましょう。気になることは、帰ってからギルドに報告すればいいわ」

「そうだな!」

 ガルドはあっさりと頷いた。

 それから、ふと思い出したようにマルコへ顔を向ける。

「ところで、リンド村のカブって肉と一緒に煮込むとうまいのか?」

「……うまいぞ」

「よし!」

「ガルド、今はその話じゃないでしょう!」

 セリナの声が街道に響いた。

 マルコは緊張が解けたのか、声を上げて笑った。

「ははは! いや、村に着いたらぜひ食べていってくれ。うまい料理を出す店もあるからな!」

「本当か!」

「ええ、楽しみね」

 再び馬車が動き始めた。

 穏やかな草原の道を、荷馬車がゆっくり進んでいく。

 しかし、街道脇の草むらには、まだ新しい足跡がいくつも残されていた。

 その足跡は、グラスファングたちが走り去った方向とは反対――北の森へと続く道から伸びていた。

 そして、草むらのさらに奥。

 誰も気づかない場所で、小さな影が一つ、音もなく動いた。

 その影は馬車を追うことなく、北の森へ向かって消えていった。

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この記事を書いた人

Web小説書いてます。最強・ファンタジー・冒険・ほのぼの・飯テロが好き。Xアカウントはこちら→

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