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第24話「新人冒険者、腕自慢大会に参加する」

 街へ戻ったガルドとセリナは、門をくぐったところで足を止めた。

「……なんだ、あれ?」

 ガルドが指さした先には、大勢の人だかりができていた。

 広場には木製の柵が並べられ、何人もの男たちが大きな声で呼び込みをしている。

 普段は露店が並んでいる場所なのだが、今日は様子が違った。

 中央には簡易的な舞台が設置され、その脇には大きな木箱や丸太、さらには鉄製の重りまで並べられている。

「何かのお祭りか?」

「みたいね。ちょっと見てみましょうか」

 セリナが人だかりに近づく。

 すると、威勢のいい男の声が聞こえてきた。

「さあさあ、今年も始まるぞ! 力自慢の冒険者たちよ、腕に覚えがあるなら参加してみろ!」

「優勝賞金は金貨五枚! さらに、鍛冶屋特製の装備品も進呈だ!」

「おおっ!」

 ガルドの目が輝いた。

「金貨五枚だってよ!」

「そこに反応するの?」

「金があれば、うまい飯がたくさん食えるだろ!」

「……まあ、そうね」

 セリナは苦笑した。

 どうやら、彼の頭の中ではすでに賞金の使い道が決まっているらしい。

 しかし、賞金だけが目当てというわけでもなさそうだった。

 ガルドは会場に並べられた丸太や重りを眺め、どこか楽しそうに拳を握っている。

「なあ、あれって誰でも参加できるのか?」

「冒険者限定ではないみたいね。参加条件を聞いてみましょう」

 二人が受付へ向かうと、日に焼けた大柄な男が笑顔で出迎えた。

「おっ、参加希望か?」

「おう! ガルドだ!」

「私はセリナよ」

「俺は大会運営のバルガだ。よろしくな!」

 バルガは二人を見比べた。

 セリナが弓と双剣を装備しているのは分かる。

 だが、ガルドの背中にある大剣を見た途端、彼は目を丸くした。

「……おいおい。その剣、本物か?」

「もちろんだぞ!」

「そんなものを振り回すつもりか?」

「振り回すために持ってるんだろ?」

「そりゃそうだが……」

 バルガはしばらく大剣を見つめたあと、豪快に笑った。

「はははっ! 面白い! よし、参加するなら歓迎するぜ!」

「よし!」

 ガルドは拳を突き上げた。

「ちょっと待って。私も参加しないといけないの?」

 セリナが尋ねる。

「いや、見学だけでも構わないぞ。女性の参加者もいるが、無理に出る必要はない」

「そう。じゃあ、私は見ているわ」

 セリナはほっとしたように笑った。

 腕力勝負ならともかく、こういう大会でガルドと張り合うつもりはない。

 彼の規格外ぶりは、もう十分に知っている。

「ガルド、ほどほどにね」

「おう!」

 返事だけは元気だった。

 セリナは少しだけ不安になった。

 この男の「ほどほど」が、どの程度なのか分からないからだ。


 大会の参加者が集まり、広場はますます賑やかになっていった。

 冒険者らしい男たちだけでなく、荷運びの仕事をしている者や、鍛冶屋の職人まで参加している。

 中には、体格だけならガルドにも負けていない大男もいた。

「よし、まずは第一種目! 丸太運びだ!」

 バルガの声が広場に響く。

「指定された場所まで丸太を運び、その速さを競ってもらう! ただし、丸太を落としたら失格だ!」

 参加者たちの前に、太い丸太が並べられた。

 どれも大人が両腕で抱えるのがやっとという大きさだ。

 ガルドは一本を持ち上げ、軽く重さを確かめた。

「ふむ……」

 セリナが観客席から声をかける。

「どう? 重そう?」

「いや、軽いぞ!」

「……そう」

 セリナは、それ以上何も言わなかった。

 合図の鐘が鳴る。

「始め!」

 参加者たちが一斉に丸太を担ぎ、走り出した。

 ガルドも丸太を肩に担ぐ。

 そして――。

「よし、行くぞ!」

 走り出した。

 いや、走り出したというより、丸太を担いだまま普通に歩くような速度で進んでいる。

 だが、その歩幅が異様に大きかった。

 あっという間に他の参加者を追い抜き、ゴールへ到着する。

「一着、ガルド!」

 審判の声が響いた。

「おおっ! 速いぞ!」

「新人なのに、すげえな!」

 観客たちから歓声が上がる。

 ガルドは丸太を地面に下ろし、満足そうにうなずいた。

「よし!」

 そして、周囲を見回す。

「次は何だ?」

 その様子に、セリナは額を押さえた。

「……本当に楽しんでるわね」

 隣にいた女性の観客が、感心したように言った。

「彼、すごいですね。あんな大きな丸太を担いで、あの速さなんて」

「ええ。まあ……すごいのは間違いないわ」

 セリナは苦笑した。

 あれだけの力があれば、荷運びの仕事だけでも一生困らないだろう。

 本人にその気があるかは別として。


「第二種目! 重量上げ!」

 続いて、鉄製の重りが運び込まれた。

 大小さまざまな重りが並べられ、参加者たちは順番に持ち上げていく。

 最初は片手で持てる程度のものから始まり、次第に重くなっていった。

 参加者の中には、両手で持ち上げた瞬間に顔を真っ赤にする者もいる。

「ぐっ……おおおっ!」

 大柄な冒険者が、なんとか重りを頭上まで持ち上げた。

 観客から拍手が起こる。

「すごいな!」

 ガルドは素直に感心した。

 自分の番が来ると、彼は重りの前に立った。

「これを持ち上げればいいんだな?」

「ああ。ただし、持ち上げた状態を三秒間維持してくれ!」

「分かった!」

 ガルドは両手で重りをつかんだ。

 そして、持ち上げる。

 軽々と。

 頭上まで。

 さらに――。

「これ、片手でもいけるか?」

 ガルドは首を傾げた。

「お、おい! 両手で持ち上げれば十分だぞ!」

 審判が慌てて声を上げる。

「そうなのか?」

「そうだ!」

「分かった!」

 ガルドは素直に重りを下ろした。

 会場は、一瞬静まり返った。

 今の重りは、他の参加者が二人がかりで持ち上げようとしていたものだった。

 それをガルドは、まるで荷物を持つような感覚で扱っていたのである。

「……あいつ、何者だ?」

「新人冒険者だってよ」

「冗談だろ……」

 観客席がざわめく。

 セリナは小さくため息をついた。

「だから、普通じゃないのよ……」

 もっとも、ガルド本人は周囲の反応など気にもしていない。

「なあ、次はもっと重いやつないのか?」

 審判は困り果てた顔をした。

「……あるにはあるが、あれは大会記録用の特別な重りだ。普段の競技では使わないぞ」

「じゃあ、それをやろう!」

「いや、だから……!」

 バルガが腹を抱えて笑った。

「ははははっ! いいじゃねえか! せっかくだ、試してみろ!」

「親方、本気ですか!?」

「面白そうだからな!」

 運営スタッフが、倉庫から特別な重りを運び出してきた。

 大きな鉄の塊で、台座に置かれた状態でも存在感がある。

 参加者たちが一斉に距離を取った。

「おいおい、あれは普通の人間が持てるものじゃないぞ……」

「前の大会でも、持ち上げられた奴はいなかったはずだ」

 ガルドは重りの前に立ち、手を伸ばした。

「よし、いくぞ!」

 ぐっと持ち上げる。

 重りは、あっさりと地面を離れた。

「おおおおっ!?」

 歓声が爆発する。

 ガルドはそのまま頭上まで持ち上げ、三秒どころか、しばらくその姿勢を維持した。

「これでいいか?」

「……ああ。十分すぎる」

 審判は呆然と答えた。

 ガルドは重りをゆっくりと台座へ戻した。

 そして、満面の笑みを浮かべる。

「いやあ、いい運動になったな!」

 会場中がどよめいた。

 セリナは、もはや何も言わなかった。


 大会は、その後も続いた。

 最後の種目は、木製の武器を使った模擬戦だった。

 参加者同士が向かい合い、相手の胸元につけられた布を先に取れば勝ちというルールである。

 危険な攻撃は禁止されており、力だけでなく技術や判断力も試される競技だった。

「ガルド、これは力任せにやらない方がいいわよ」

 セリナが忠告する。

「分かってるって!」

「本当に?」

「相手の布を取ればいいんだろ?」

「そうだけど……」

 セリナは不安を拭えなかった。

 ガルドは強い。

 だが、技術を競う場でどこまで通用するかは分からない。

 最初の対戦相手は、槍を扱う若い冒険者だった。

「俺はロニーだ。よろしく頼む!」

「ガルドだ! よろしくな!」

 二人は向かい合い、木製の武器を構えた。

 審判が手を上げる。

「始め!」

 ロニーが素早く踏み込み、槍を突き出した。

 狙いはガルドの胸元。

 ガルドは大剣の代わりに持った木剣を横へ動かし、槍の軌道をそらした。

「なっ!?」

 ロニーが体勢を崩す。

 ガルドはその隙に一歩踏み込み、相手の胸元へ手を伸ばした。

 布を取る。

「勝者、ガルド!」

「えっ、もう終わり!?」

 観客から笑い声が上がった。

 ロニーは悔しそうに頭をかいた。

「くそっ、力が強いだけじゃなく、反応も速いのかよ!」

「いや、今のは槍が来たから、どかしただけだぞ?」

「それが簡単にできたら苦労しないんだよ!」

 ロニーは笑いながら手を差し出した。

 ガルドはその手を握り返す。

「またやろうぜ!」

「ああ。次は負けないからな!」

 こうして、ガルドは次々と勝ち進んでいった。

 力だけに頼るのではなく、相手の動きを見て、隙ができたところで一気に距離を詰める。

 大剣を扱うために自然と身についた間合いの感覚が、木剣での模擬戦にも活かされていた。

 そして、決勝戦。

 ガルドの前に立ったのは、屈強な体格をした冒険者だった。

「俺はダグラス。普段は護衛依頼を受けている」

「ガルドだ!」

「お前の力は見せてもらった。だが、模擬戦は力比べじゃない。そう簡単には勝たせんぞ」

「おお! 楽しみだな!」

 ダグラスは木剣を構えた。

 構えに無駄がない。

 重心も安定しており、ただの力自慢ではないことが分かった。

 審判が手を上げる。

「始め!」

 ダグラスが動いた。

 正面から攻めると見せかけて、直前で踏み込みを変える。

 木剣がガルドの脇を狙った。

 だが、ガルドは半歩下がって攻撃をかわし、相手の腕へ木剣を軽く当てた。

 ダグラスはすぐに体勢を立て直し、今度は連続して攻め込む。

 ガルドはそれを受け流し、かわし、時には木剣で押し返した。

 観客席が静かになった。

 ガルドは大剣を使っているときほど豪快ではない。

 それでも、相手の動きをよく見ている。

 そして、ダグラスの攻撃がわずかに大きくなった瞬間。

「そこだ!」

 ガルドが踏み込んだ。

 木剣で相手の武器を押さえ、空いた手で胸元の布をつかむ。

 あっという間だった。

「勝者、ガルド!」

 審判の声が響いた。

 一瞬の静寂。

 そして、大きな歓声が広場を包み込んだ。

「すげえぞ、新人!」

「今年の優勝者は決まりだな!」

「おい、あいつ本当に新人なのか!?」

 ダグラスは驚いた顔をしたあと、豪快に笑った。

「ははっ! 参った! まさか、あそこまで簡単に間合いを詰められるとはな!」

「いや、最後はたまたまだぞ!」

「たまたまで取られてたまるか!」

 二人は笑いながら握手を交わした。

 セリナは観客席から拍手を送った。

「おめでとう、ガルド!」

「おう!」

 ガルドは満面の笑みで手を振った。

 その顔を見て、セリナも自然と笑顔になった。


 大会が終わり、ガルドは優勝賞金の金貨五枚と、鍛冶屋特製の装備品を受け取った。

 装備品は、腕を保護するための丈夫な革製の手甲だった。

「おお! これ、使いやすそうだな!」

 ガルドはさっそく手にはめてみた。

「よく似合っているわよ」

 セリナが言う。

「本当か?」

「ええ。大剣を振るときにも役立ちそうね」

「よし! 大事に使うぞ!」

 ガルドは嬉しそうにうなずいた。

 そして、賞金袋を大事そうにしまう。

「さて……」

 彼は広場を見渡した。

「飯だな!」

「やっぱり、そうなるのね」

 セリナは笑った。

「優勝したんだから、今日は少し豪華にしましょうか」

「本当か!?」

「ええ。私も今日はお腹が空いたわ」

「よし! 肉を食いに行こう!」

 二人は広場を後にした。

 向かったのは、街でも評判の肉料理店だった。

 店に入ると、香ばしい匂いが二人を迎える。

 ガルドは迷うことなく、分厚いステーキと焼きソーセージ、それに肉入りの煮込み料理を注文した。

 セリナも笑いながら、いつもより少し豪華な料理を頼んだ。

「それにしても、今日はすごかったわね」

 料理を待つ間、セリナが言った。

「何がだ?」

「大会よ。あんなに簡単に勝ち進むなんて思わなかった」

「そうか? みんな強かったぞ!」

「あなたが言うと、嫌味に聞こえるわね……」

「えっ、なんでだ?」

 セリナはくすりと笑った。

「何でもないわ」

 やがて、料理が運ばれてきた。

 ガルドは目を輝かせ、両手を合わせる。

「いただきます!」

 熱々のステーキを口に運ぶ。

 肉汁が広がり、香ばしい焼き目の風味が口いっぱいに広がった。

「うまいっ!」

 ガルドの声が店内に響く。

「そんなにおいしい?」

「おう! セリナも食ってみろ!」

 ガルドは自分の皿から一切れ切り分け、彼女の皿へ移した。

「えっ……ありがとう」

 セリナは少し驚きながらも、笑顔で受け取った。

 ひと口食べる。

「……本当ね。すごくおいしい」

「だろ!」

 ガルドは満足そうにうなずいた。

 セリナはそんな彼を眺めながら、ふと思った。

 この男は、強さを誇ろうとしない。

 勝ったからといって威張ることもなければ、相手を見下すこともない。

 ただ、目の前のことを全力で楽しんでいる。

 それが、ガルドという冒険者なのだろう。

「ねえ、ガルド」

「ん?」

「これからも、いろんな依頼を一緒に受けましょうね」

 ガルドは一瞬きょとんとしたあと、笑顔でうなずいた。

「もちろんだ! セリナと一緒なら、どんな冒険も楽しそうだからな!」

「……っ」

 セリナの頬が、ほんのり赤くなった。

 しかし、ガルドは気づかない。

「それに、二人ならいろんな町に行けるだろ? 町ごとにうまい飯があるかもしれないしな!」

「……もう。結局、そこなのね」

 セリナは呆れたように笑った。

 それでも、その表情は嬉しそうだった。

 窓の外では、夕日が街並みを赤く染め始めている。

 森の異変は、まだ続いている。

 黒い巨影の正体も、古い岩壁の向こうにあるものも、分からないままだ。

 けれど、冒険者の毎日は、それだけではない。

 街で新しい仲間と出会うこともある。

 思いがけない大会で優勝することもある。

 そして、うまい飯を食べながら、次の冒険を楽しみにする夜もある。

「なあ、セリナ」

「何?」

「明日は何をする?」

「そうね……たまには、のんびり過ごすのもいいんじゃない?」

「のんびり?」

「ええ。買い物をしたり、街を散歩したり」

 ガルドは少し考えた。

「……食べ歩きもありか?」

「ふふっ。もちろん」

「よし! 明日は食べ歩きだ!」

 ガルドは勢いよく宣言した。

 セリナは笑いながら、グラスを手に取った。

 次の冒険が始まるまで、もう少しだけ。

 二人には、楽しい夜が続いていた。

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この記事を書いた人

Web小説書いてます。最強・ファンタジー・冒険・ほのぼの・飯テロが好き。Xアカウントはこちら→

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