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第22話「新人冒険者、巨大な魔物を一撃で吹き飛ばす」

 東の山道を進み始めてから、しばらくが経った。

 街道は次第に細くなり、周囲には大きな岩や背の高い木々が目立つようになっていた。

 人が通らなくなって久しいのか、道のあちこちに草が生えている。

「この辺りが、古い街道の入口ね」

 セリナは地図を確認しながら言った。

「道がかなり荒れているわ。昔は馬車も通っていたみたいだけど、今は難しそうね」

「馬車が通れないなら、歩けばいいだろ?」

「そういう問題じゃないのよ」

 ガルドは不思議そうに首を傾げた。

 セリナは苦笑しながら、周囲へ視線を向ける。

 ここから先は、ギルドの記録にもほとんど残っていない場所だ。

 何が起きても不思議ではない。

「気をつけて進みましょう。魔物の気配があったら、すぐに知らせてね」

「分かった!」

 ガルドも背中の大剣を確かめ、ゆっくりと歩き始めた。

 そのときだった。

 ――ガサッ。

 右手の茂みが揺れた。

 セリナは即座に弓を構える。

「止まって!」

 次の瞬間、茂みを突き破って巨大な魔物が飛び出してきた。

 全身を覆う灰色の毛。

 盛り上がった肩。

 そして、頭部から伸びる二本の太い角。

「グルルルル……!」

 魔物は低くうなり、二人をにらみつけた。

 その体格は、以前戦ったブラウンホーンよりも一回り大きい。

 しかも、額から鼻先にかけて硬い甲殻のようなものが広がっていた。

「おお! また大きいのが出てきたな!」

 ガルドは嬉しそうに大剣を抜いた。

「ちょっと、喜んでる場合じゃないでしょ!」

「いや、だって強そうだぞ!」

「そういうところよ!」

 セリナが言い終わるより早く、魔物が地面を蹴った。

 巨体からは想像できないほどの速さで突進してくる。

「ガルド、正面から受けないで!」

「おう!」

 ガルドは横へ跳んだ。

 魔物の角が、彼のすぐ脇を通り抜ける。

 勢いを止められなかった魔物は、そのまま街道脇の岩へ激突した。

 轟音が響き、岩の表面に亀裂が走る。

「うわっ、すごいな!」

「感心してないで! 次が来るわ!」

 魔物は頭を振り、再びガルドへ向き直った。

 その目には、はっきりと敵意が浮かんでいる。

 セリナは弓を引き絞った。

「まずは動きを止める!」

 放たれた矢が、魔物の前脚付近へ飛ぶ。

 矢は硬い毛と甲殻の隙間に当たり、魔物の動きがわずかに乱れた。

 その一瞬を、ガルドは見逃さなかった。

「今だな!」

 大剣を構え、踏み込む。

 しかし、魔物も黙ってはいない。

 巨体をひねり、太い角でガルドを弾き飛ばそうとした。

 ガルドは大剣の腹を盾のように構え、角を受け止める。

 ――ガキィンッ!

 金属音が山道に響いた。

 強烈な衝撃が走る。

 普通の冒険者なら、そのまま後方へ吹き飛ばされていたかもしれない。

 だが、ガルドは一歩も引かなかった。

「おっ、力が強いな!」

 むしろ、楽しそうに笑っている。

「ガルド! 遊んでないで!」

「遊んでないぞ!」

「顔が楽しそうなのよ!」

 セリナは弓を背負い、腰の双剣を抜いた。

 魔物の注意がガルドに向いている今なら、横から攻められる。

 彼女は素早く側面へ回り込み、魔物の後脚を狙って斬りつけた。

 刃が毛の薄い部分をかすめ、魔物が驚いて足を踏み直す。

「こっちよ!」

 セリナはすぐに距離を取った。

 魔物が彼女へ向き直ろうとする。

 その動きに合わせ、ガルドが大剣を振り上げた。

「よそ見してると危ないぞ!」

 大剣が横薙ぎに振るわれる。

 魔物は頭を下げてかわそうとしたが、刃は肩の甲殻をかすめ、巨体を大きく揺らした。

「グオオオッ!」

 魔物が怒りの声を上げる。

 地面を蹴り、今度はセリナへ突進した。

「っ!」

 セリナは横へ飛び退いたものの、魔物の巨体が迫り、逃げ道が狭まる。

 そこへ、ガルドの声が響いた。

「セリナ、しゃがめ!」

 即座に身を低くしたセリナ。

 その頭上を、巨大な大剣が通り抜ける。

 ガルドは彼女のすぐ後ろから踏み込み、魔物の側面へ大剣を叩きつけた。

 ――ドゴォンッ!

 衝撃で魔物の体が横へ流れる。

 巨体が街道を滑り、土煙が舞い上がった。

 セリナは素早く立ち上がり、ガルドの隣へ戻る。

「助かったわ!」

「おう!」

「でも、次はちゃんと合図してよね!」

「今、合図しただろ?」

「直前すぎるのよ!」

 言い合いながらも、二人の動きには迷いがなかった。

 ガルドが正面から魔物の攻撃を引きつけ、セリナが隙を見つけて動きを乱す。

 出会って間もないはずなのに、二人は自然と互いの動きを理解し始めていた。

 魔物は再び立ち上がった。

 額の甲殻には傷が入り、肩の毛並みも乱れている。

 それでも、戦意は衰えていなかった。

「まだやる気か!」

 ガルドは大剣を肩に担ぎ直した。

「タフなやつだな。こういう相手は嫌いじゃないぞ!」

 魔物は地面を何度も踏み鳴らし、力をためるように頭を下げた。

 次は、これまで以上の突進が来る。

 セリナはそれを見抜いた。

「ガルド! 正面から受け止めるつもり?」

「そのつもりだ!」

「なら、私が隙を作るわ!」

 セリナは弓を手に取り、魔物の目の前ではなく、前脚のすぐ脇に矢を放った。

 矢が地面に突き刺さり、魔物の注意が一瞬だけそちらへ向く。

 そのわずかな間に、彼女は横へ走り、もう一本の矢を放った。

 今度は甲殻の端に当たり、魔物が頭を振る。

「今よ、ガルド!」

「おう!」

 ガルドは大剣を両手で握り、腰を落とした。

 魔物が突進してくる。

 地面が揺れ、土煙が舞い上がる。

 ガルドは逃げなかった。

 迫り来る巨体を見据え、ぎりぎりまで引きつける。

 そして――。

 大剣を、下から大きく振り上げた。

 ――ドォォォンッ!!

 凄まじい衝撃が炸裂した。

 大剣の一撃を受けた魔物の巨体が、突進の勢いごと大きく持ち上がる。

 巨体は地面から浮き上がり、そのまま数メートル先へ吹き飛ばされた。

 地面を転がり、岩の手前でようやく止まる。

 周囲の木々が揺れ、落ち葉が一斉に舞い上がった。

 静寂。

 セリナは、口を開けたまま固まっていた。

「…………」

 ガルドは大剣を肩に担ぎ、魔物の方を見た。

「おお! 今のはうまくいったな!」

「うまくいったな、じゃないわよ!」

 セリナが思わず叫んだ。

「今、あれを吹き飛ばしたの!? あんな大きな魔物を!?」

「そうだが?」

「そうだが、じゃないでしょう!」

 セリナは頭を抱えた。

 これだけの巨体を、真正面からの一撃で吹き飛ばす。

 そんな芸当ができる冒険者は、そう多くない。

 それも、ガルドは息一つ乱していなかった。

「……本当に、とんでもないわね」

「そうか?」

「そうよ!」

 セリナは大きく息を吐いた。

 だが、倒れた魔物が動かないことを確認すると、ようやく表情を緩めた。

「とにかく、勝ったみたいね」

「だな!」

 ガルドは満足そうに笑った。

 そして、倒れた魔物を見ながら、ふと思い出したように言った。

「ところで、こいつって食えるのかな?」

「……またそれ?」

「いや、気になるだろ!」

「気になるけど、今は先に調査!」

「分かった!」

 ガルドは素直にうなずいた。

 セリナは、そんな彼を見て小さく笑った。

 この調子なら、まだまだ振り回されることになりそうだ。

 それでも――。

 彼と一緒なら、どんな危険な場所でも切り抜けられる。

 そんな気が、少しずつしていた。


 戦闘を終えた二人は、周囲の安全を確かめてから、魔物の様子を調べた。

 体は大きく、全身を灰色の毛に覆われている。

 額の甲殻は特に硬く、正面からの攻撃に強い構造をしていた。

「ギルドで聞いたことがない魔物ね……」

 セリナは魔物の特徴を手帳に書き留めた。

「こんな魔物が街道の近くに現れるなんて、やっぱり異変と関係があるのかしら」

「森から出てきたのかもな」

「そうね。少なくとも、ここにいる理由は調べる必要があるわ」

 さらに周囲を確認していると、ガルドが岩場の近くで足を止めた。

「セリナ、これを見てくれ!」

「何かあったの?」

 彼が指さしたのは、地面に残された深い跡だった。

 大きな爪で引っかいたような傷が、岩の表面に何本も走っている。

 そして、その傷の先には――古い岩壁があった。

 昨日、黒い巨影が向かっていった場所だ。

「……やっぱり、ここにも傷がある」

 セリナは岩壁へ近づき、慎重に観察した。

 傷は新しいものと古いものが混じっている。

 ただの風化や崩落ではない。

 何かが、何度もこの岩壁に接触したように見えた。

 ガルドは岩壁を見上げた。

 巨大な岩が折り重なり、自然にできた壁のようにも見える。

 しかし、よく見ると岩の並び方には不自然な部分があった。

 まるで、奥へ続く何かを塞いでいるかのようだった。

「この奥に、何かあるのか?」

 ガルドが手を伸ばしかけた、そのとき。

 ――ゴゴゴゴ……。

 低い音が響いた。

 二人は同時に顔を上げる。

 足元の小石が、かすかに震えていた。

「今の音……」

 セリナが周囲を見回す。

 音は、岩壁の向こう側から聞こえてきたようだった。

 やがて揺れは収まり、辺りは再び静かになった。

 ガルドは大剣を握り直した。

「……何かいるな」

「ええ。でも、今は近づかない方がいいわ」

 セリナは慎重に岩壁から距離を取った。

 目の前には、巨大な魔物を吹き飛ばしたばかりのガルドがいる。

 それでも、岩壁の向こうに何があるのかは分からない。

 今の二人に必要なのは、無理に突破することではなく、情報を持ち帰ることだった。

「ギルドに報告しましょう。ここで何が起きているのか、もっと調べる必要があるわ」

「分かった。次に来るときは、もっと強い魔物が出てくるかもしれないな!」

「……できれば、出てこないでほしいんだけど」

「でも、出てきたら倒せばいいだろ!」

「その自信はどこから来るのよ……」

 セリナは苦笑した。

 二人は周囲の様子をもう一度確認し、来た道を戻り始めた。

 背後には、静まり返った古い岩壁が残されている。

 その奥で何が起きているのか。

 そして、黒い巨影は何を探しているのか。

 まだ、その答えは見つからない。

 だが、確かなことが一つだけあった。

 森の異変は、ただ魔物が移動しているだけではない。

 何かが、この場所で動き始めているのだ。

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この記事を書いた人

Web小説書いてます。最強・ファンタジー・冒険・ほのぼの・飯テロが好き。Xアカウントはこちら→

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