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第35話「新人冒険者、古代遺跡の暴走を止めろ!」

 翌朝。

「よし! 準備は万全だな!」

 ガルドは大剣を背負い、両手を腰に当てて満足そうにうなずいた。

 その隣では、セリナが荷物を確認し、エリシアが古びた羊皮紙を広げている。

「水、食料、回復薬、予備の矢……うん。忘れ物はなさそうね」

「魔力回復薬も持ちました。昨日の資料もありますし、今日は遺跡の奥まで調べられるはずです」

「おう。行こう!」

 ガルドが勢いよく歩き出す。

「待って。まだ地図をしまってないから!」

 セリナに呼び止められ、ガルドはぴたりと止まった。

「おっと。悪い!」

 その様子を見て、エリシアは小さく笑った。

「ふふっ。お二人は、いつもこんな感じなんですか?」

「ええ。だいたいね」

「褒めてるのか?」

「さあ、どうでしょう」

 セリナは涼しい顔で歩き始めた。

 ガルドは首をかしげたものの、深く考えるのはやめた。

 考えたところで答えが出るとは限らない。

 それより、今日は何が待っているのか。

 そちらのほうが、ずっと楽しみだった。


 山道を進み、三人は昨日訪れた古代遺跡へと戻ってきた。

 石造りの階段を下り、守護像が眠る大広間を抜ける。

 その奥には、昨日は開かなかった二枚目の扉がそびえていた。

 扉には、剣を構える人物と巨大な獣の絵が刻まれている。

 そして、その下には古代文字が並んでいた。

「ええと……」

 エリシアは文字を確かめながら、ゆっくりと読み上げる。

「『力を示す者ではなく、力を制御する者に道を開く』……」

「力を制御?」

 ガルドは自分の腕を見下ろした。

「つまり、力いっぱい押すのは駄目ってことか?」

「そういうことだと思います。たぶん」

 扉の左右には、三つのくぼみがある。

 ひとつには魔法陣。

 ひとつには円盤状の金属板。

 そして最後のひとつには、剣を掲げた人物の絵が刻まれていた。

「三つの仕掛けを同時に動かす必要があるみたいです」

 エリシアが魔法陣を調べる。

「私が魔力を流します。セリナさんは、そちらの金属板をお願いします」

「わかったわ」

「俺は?」

「ガルドさんは……その絵の前で待っていてください」

「おう!」

 ガルドは素直にうなずき、大剣を背中から下ろした。

 エリシアが魔法陣に触れる。

 青白い光が走り、扉の内部で何かが動く音がした。

 続いて、セリナが金属板を回す。

 カチリ。

 別の場所からも音が響いた。

「ガルドさん! 剣を掲げてみてください!」

「よし、任せろ!」

 ガルドは大剣を両手で持ち上げた。

 剣身が天井の光を受け、扉に刻まれた絵の上を照らす。

 その瞬間だった。

 最後のくぼみに、金色の光が灯った。

 ゴゴゴゴゴ……!

 重い音とともに、石の扉がゆっくりと開いていく。

「開きました……!」

 エリシアの声が弾んだ。

「俺、剣を持ち上げただけだぞ!」

「それが必要だったんでしょうね」

 セリナは笑いながら、大剣をしまうガルドを見た。

「でも、今度は本当に何も壊さなかったわね」

「俺だって、やるときはやるんだぞ」

「はいはい。期待してるわ」

「絶対、信じてないだろ!」

 そんなやり取りをしながら、三人は扉の向こうへ足を踏み入れた。


 その先に広がっていたのは、巨大な円形の部屋だった。

 壁には複数の金属板が埋め込まれ、床には複雑な魔法陣が描かれている。

 部屋の中央には、いくつもの輪が重なった奇妙な装置が浮かんでいた。

 その真下には、黒ずんだ結晶が据えられている。

「これは……!」

 エリシアは思わず駆け寄りかけ、慌てて足を止めた。

「近づく前に調べたほうがいいわね」

 セリナの言葉に、彼女はこくりとうなずく。

「はい。魔力の流れを確認します」

 エリシアが杖を掲げる。

 淡い光が装置の周囲を走り、空中に古代文字が浮かび上がった。

「やっぱり……! これは、物質に魔力を通して性質を強化するための装置です!」

「物質を強化?」

 ガルドが首をかしげる。

「たとえば武器なら、壊れにくくしたり、魔法を通しやすくしたり。建物や橋、農具にも応用できる可能性があります」

「すごいな! 畑の道具も強くなるのか!」

「ええ。もし仕組みを持ち帰れれば、いろいろな分野に役立つかもしれません」

 エリシアの声には、抑えきれない興奮がにじんでいた。

 しかし、そのとき。

 ピシッ。

 小さな音が部屋に響いた。

「……今の音、何?」

 セリナが弓を構える。

 中央の黒い結晶に、細い亀裂が走っていた。

 次の瞬間、装置の輪が勢いよく回転を始める。

 ゴォォォン!

 床の魔法陣が赤く光り、部屋全体が激しく揺れた。

「きゃっ!」

 倒れかけたエリシアを、ガルドが支える。

「す、すみません! 装置が勝手に動き始めています!」

「止められないのか?」

「制御盤が……あそこです!」

 エリシアが壁を指さした。

 そこには三つの金属製の操作盤が並んでいる。

 だが、中央の装置から伸びる光の筋が操作盤を行き来し、触れるたびに火花を散らしていた。

「三つの制御盤を同時に動かせば、装置を停止できるはずです! でも、魔力の流れが乱れています。このままだと、何が起こるかわかりません!」

「つまり、急いで止めればいいんだな!」

「簡単に言わないでください!」

「でも、やらなきゃまずいんだろ?」

 ガルドはにっと笑い、大剣を握り直した。

「だったら、やるしかない!」

 セリナは一瞬だけ目を丸くし、それから小さく笑った。

「……そうね。エリシアと私が左右を担当するわ。ガルドは中央をお願い」

「了解!」

 三人は同時に走り出した。


 セリナは左の操作盤へ飛び込み、弓を背負って金属板に手をかけた。

「これ、押すんじゃなくて回すのね……!」

 だが、金属板はびくともしない。

「くっ……!」

 装置がさらに激しく振動し、足元の石片が跳ね上がる。

 セリナは体勢を低くして踏ん張った。

「こんなところで、止まってられないわよ!」

 全身の力を込める。

 ギギギッ……!

 金属板が少しずつ回り始めた。

 一方、エリシアは右の操作盤に杖を当てていた。

「魔力の流れを……ここで切り替えて……!」

 複雑な古代文字が次々と浮かび上がる。

 ひとつ間違えれば、装置がさらに暴走するかもしれない。

 それでも彼女は目をそらさなかった。

「お願い……間に合って!」

 そして、ガルドは中央の操作盤へ到着した。

 そこには、歪んだ金属のふたが取りつけられていた。

「これを開ければいいのか?」

 引っ張ってみる。

 びくともしない。

「……頑丈だな」

 ガルドは大剣を横にして、剣先を金属のふたの隙間へ差し込んだ。

「よいしょっと!」

 大剣をてこのように使い、力を込める。

 ギギギギギッ!

 ふたが大きく歪み、ついには外れた。

「開いた!」

 内部には、赤く点滅する円形の部品があった。

 その中央に、押し込めそうな突起がある。

「これを押せばいいんだな!」

 ガルドが手を伸ばした瞬間。

 装置の中央から、巨大な影が飛び出した。

「危ない!」

 セリナの叫びと同時に、石の守護像が床へ着地する。

 昨日倒したものと同じ形だ。

 だが、今度の守護像は全身に赤い光をまとい、動きも格段に速かった。

「また出たんですか!?」

 エリシアが悲鳴を上げる。

 守護像はガルドへ向かって腕を振り下ろした。

「おっと!」

 ガルドは大剣を盾のように構え、攻撃を受け止める。

 ドォンッ!

 足元の石が砕け、ガルドの靴が床を滑った。

「昨日のやつより力が強いな!」

「感心してる場合じゃないでしょう!」

 セリナが矢を放つ。

 矢は守護像の肩に当たり、赤い光を一瞬だけ乱した。

「エリシア! この守護像、さっきの装置とつながってるの!?」

「おそらく! 装置を止めない限り、動き続けるはずです!」

「なら、こっちで引きつけるわ!」

 セリナは守護像の側面へ回り込み、矢を放ちながら注意を引く。

 守護像がそちらへ向き直った隙に、ガルドは大剣を振り上げた。

「こっちだ!」

 刃ではなく、剣の腹を叩きつける。

 ガァンッ!

 守護像の巨体が横へよろめいた。

 しかし、倒れない。

 守護像は体勢を立て直すと、今度は両腕を広げ、周囲の魔力を吸い上げ始めた。

「まずいです! 装置の魔力が、守護像に集まっています!」

 エリシアが叫ぶ。

「ガルドさん! 胸の赤い紋章を狙ってください! そこが魔力の通り道です!」

「よし、わかった!」

 ガルドは大剣を握り直した。

 守護像が腕を振るう。

 ガルドは一歩踏み込み、攻撃を紙一重でかわした。

 そのまま、足元を蹴って跳び上がる。

「これで――どうだ!」

 大剣が唸りを上げた。

 狙うのは、胸の紋章。

 ドゴォォンッ!

 剣の腹が直撃し、赤い光が大きく弾けた。

 守護像の動きが止まる。

 同時に、エリシアが右の操作盤を押し込み、セリナが左の金属板を最後まで回した。

「ガルドさん! 今です!」

「おうっ!」

 ガルドは中央の突起を力いっぱい押し込んだ。

 カチン。

 ほんの小さな音だった。

 だが、その直後。

 装置の回転が止まった。

 赤く染まっていた魔法陣が、ゆっくりと青白い光へ戻っていく。

 守護像は腕を上げた姿勢のまま動きを止め、その場に膝をついた。

 そして、静寂が訪れた。

「…………」

 三人はしばらく、誰も動かなかった。

「……止まった?」

 セリナが慎重に尋ねる。

 エリシアは装置の魔力を確認し、何度もうなずいた。

「はい……止まりました。魔力の流れも安定しています」

「よし!」

 ガルドが大剣を掲げた。

「やったな、二人とも!」

「あなた、途中から守護像と力比べしてたでしょう……」

「ちゃんと止めただろ?」

「そうだけど!」

 セリナは呆れたように息をつきながらも、笑顔を隠せなかった。

 エリシアも、胸をなで下ろす。

「お二人がいなかったら、どうなっていたか……本当にありがとうございます」

「いや、俺一人だったら、どこを押せばいいのかわからなかったぞ」

 ガルドはあっさりと言った。

「セリナが敵を引きつけてくれたし、エリシアが止め方を見つけてくれたからな。三人だったからできたんだ!」

 その言葉に、エリシアは目を丸くした。

 セリナも一瞬だけ彼を見つめ、それから照れ隠しのように視線をそらす。

「……まあ、今回はいい連携だったわね」

「だろ?」

 ガルドは満面の笑みを浮かべた。


 装置が停止したあと、三人は改めて部屋を調べた。

 エリシアが古代文字を読み解いていくと、この施設が何のために造られたのかが、少しずつ明らかになった。

「やはり、魔力を利用して物質を強化する研究施設だったようです」

 彼女は羊皮紙に内容を書き留めながら説明した。

「ただ、装置の中心にある結晶が不安定になり、制御が難しくなった。それで施設を停止させ、守護像に立ち入りを防がせたのでしょう」

「じゃあ、宝物とかはないのか?」

 ガルドが部屋を見回す。

「ガルド……」

「いや、ほら! 古代遺跡だぞ? 剣とか、金銀財宝とか!」

「研究資料が残っているだけでも、大発見ですよ!」

 エリシアが少し頬を膨らませた。

「この技術が正しく研究されれば、武器だけでなく、農具や建築物にも応用できるかもしれないんです。人々の暮らしを変える可能性だってあります!」

「おお……!」

 ガルドは真剣な顔でうなずいた。

「つまり、畑を耕す道具が丈夫になるんだな!」

「……ええ、そういうことです」

「それはすごい!」

 エリシアは一瞬きょとんとしたあと、くすりと笑った。

 彼にとっては、世界を変えるかもしれない技術も、毎日の暮らしを支える道具も、どちらも同じくらい大切なのだろう。

 セリナも小さく微笑んだ。

「あなたらしいわね」

「ん? 何がだ?」

「何でもないわ」

 エリシアは研究資料を丁寧にまとめ、顔を上げた。

「この記録を街の研究者たちに届けます。危険な装置を再び動かさないようにすることも含めて、きちんと報告しないと」

「そうね。ここはもう安全だとしても、勝手に触られたら困るもの」

 セリナが周囲を確認する。

 装置は完全に停止し、守護像も動かない。

 遺跡の謎は、ひとまず解き明かされた。

 古代の人々が何を研究し、なぜ施設を閉ざしたのか。

 そして、なぜ守護像がここを守り続けていたのか。

 三人は、その答えを見つけたのだ。

「よし! じゃあ、帰るか!」

 ガルドが元気よく言った。

「……そうですね」

 エリシアは苦笑しながら資料をしまう。

「せっかくの発見なのに、あっさりしていますね」

「だって、腹が減った!」

「やっぱりそれなのね……」

 セリナは肩をすくめた。

 だが、彼女も少しだけお腹が空いていた。

「街に戻ったら、何か食べましょうか」

「本当か!?」

 ガルドの顔がぱっと輝く。

「ええ。ただし、今日は私が選ぶわ」

「肉がある店なら、どこでもいいぞ!」

「選ぶ意味がないじゃない!」

 遺跡の奥に眠っていた古代の技術。

 その秘密を解き明かした三人は、賑やかな声を響かせながら、山を下りていった。

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この記事を書いた人

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