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第34話「新人冒険者、作戦会議より食べ歩き!?」

 遺跡から街へ戻った翌日。

 ガルドは宿の食堂で、朝から大きな肉の塊にかぶりついていた。

「うまい! やっぱり冒険のあとは肉だな!」

「昨日は帰ってきてからも食べていたでしょう?」

 向かいの席で、セリナが呆れたように言った。

「昨日は昨日、今日は今日だ!」

「その理屈でいくと、あなたは毎日いくらでも食べられるわね……」

「おう!」

「褒めてないわよ」

 セリナがため息をつく。

 その隣では、エリシアが朝食にもほとんど手をつけず、机いっぱいに資料を広げていた。

 古文書の写し、遺跡で描き写した紋様、そして昨日の探索で気づいたことをまとめた手帳。

 彼女はそれらを何度も見比べている。

「……やっぱり、気になります」

「何がだ?」

 肉を飲み込んだガルドが顔を上げた。

「昨日の遺跡です。あの守護者も、奥の石扉も、普通の遺跡とは違います」

 エリシアは一枚の紙を二人に見せた。

 そこには、石扉に刻まれていた剣と獣の図が描かれている。

「この絵です。古い文献にも、よく似た構図が残されていました。ただ、昨日までは何を意味しているのか分からなかったんです」

「剣を持った人と、でっかい獣だな!」

「ええ。おそらく、何かを象徴しているのだと思います」

「強い奴同士が戦ってるんじゃないか?」

「……可能性はありますね」

 エリシアは少し考え込んだ。

 ガルドの言葉は、いつも驚くほど単純だ。

 けれど、時にはその単純さが、複雑に考えすぎていた頭を整理してくれることもある。

「もしかすると、あの扉は単に奥へ進むためのものではなく、何かを試すための仕掛けなのかもしれません」

「試す?」

 セリナが尋ねた。

「はい。古代の施設には、特定の条件を満たさないと入れない場所があったという記録もあります。昨日の守護者も、そのために配置されていた可能性があります」

「なるほどね……」

 セリナは腕を組んだ。

「それなら、次は扉を開ける方法だけじゃなくて、何が起きても対応できるように準備しておく必要があるわね」

「そうですね。魔力を回復する道具も、もう少し用意したいです」

「よし! じゃあ、買い出しに行こう!」

 ガルドが勢いよく立ち上がった。

「食料も必要だしな!」

「……そこは否定しないけど」

 セリナは苦笑しながら、荷物をまとめ始めた。


 街の道具屋は、朝から冒険者たちで賑わっていた。

 棚には薬草や包帯、携帯用のランタン、魔物避けの道具などが並んでいる。

「まずは回復薬と、魔力を補助する薬。それから、丈夫なロープも欲しいですね」

 エリシアが店主に相談しながら、必要な道具を選んでいく。

 セリナも、予備の矢や簡単な応急処置道具を確認していた。

「遺跡の中は足場が悪かったし、照明も必要ね。念のため、予備も買っておきましょう」

 エリシアは真剣な顔で手帳に書き込む。

 一方のガルドは、店の隅に置かれた大きな荷袋を持ち上げていた。

「おっ、これ丈夫そうだな!」

「食料を運ぶための袋ですね。荷物が多くなりそうですし、ひとつ買っておきましょうか」

「よし、決まりだ!」

 ガルドは荷袋を肩に担いだ。

 そのまま店を出ようとしたところで、セリナに襟をつかまれる。

「お金を払ってからよ!」

「おお、そうだった!」

「本当に大丈夫かしら……」

 買い出しを終える頃には、三人の荷物はかなり増えていた。

 ただし、その大半を持っているのはガルドだった。

「これくらいなら余裕だぞ!」

「助かるけど、無理はしないでね」

「大丈夫だ! まだ肉も持てる!」

「誰も肉の心配はしていないわよ」

 セリナの言葉に、エリシアがくすくすと笑った。


 昼過ぎ。

 必要な道具を揃えた三人は、街の広場へと向かった。

 広場では、屋台がいくつも並び、焼きたてのパンや串焼き、甘い菓子の匂いが漂っている。

 その光景を見た瞬間、ガルドの足が止まった。

「……おお」

 その目が、きらりと輝く。

「ガルド?」

「セリナ。エリシア」

 ガルドは真剣な顔で二人を振り返った。

「少しだけ寄っていこう」

「……少しだけ、ね」


「ガルド、買いすぎよ!」

 セリナが止める間にも、ガルドは次々と料理を購入していく。

 エリシアは最初こそ遠慮していたが、香ばしい匂いにつられて、いつの間にか焼き菓子を手にしていた。

「……これ、おいしいですね」

「だろ! こっちも食べてみろ!」

「えっ、いいんですか?」

「もちろんだ!」

 ガルドは自分の串焼きを一本差し出した。

 エリシアは嬉しそうに受け取り、一口食べる。

「本当においしい……!」

「エリシアまでガルドの食べ歩きに巻き込まれているわね」

「で、でも、せっかく街に来たんですから!」

 エリシアは少し恥ずかしそうに笑った。

 そのとき、近くの屋台から威勢のいい声が響いた。

「さあさあ、今なら山猪の香草焼きが焼き上がったぞ! 特製のタレもたっぷりだ!」

「なにっ!?」

 ガルドが勢いよく振り向いた。

 セリナは空を仰いだ。

「……作戦会議はいつになったら始まるのかしら」


 ようやく食べ歩きが落ち着いた頃。

 三人は広場の端にあるベンチに腰を下ろした。

 ガルドは満足そうに腹をさすり、エリシアは買った焼き菓子を大事そうに包み直している。

「さて。そろそろ真面目な話をしましょうか」

 セリナが手帳を取り出した。

「次に遺跡へ行くときの役割を決めておきたいわ」

「はい!」

 エリシアも背筋を伸ばした。

「遺跡の文字や装置の調査を担当します。魔法の仕掛けがあれば、できる限り解析します」

「私は周囲の警戒と、遠距離からの援護ね。守護者のような相手がいたら、弱点や動きを見極めるわ」

「じゃあ、俺は前で戦う!」

 ガルドが即答した。

「そうね。あなたの力が頼りになるのは間違いないわ。でも、昨日みたいに何でも正面から受け止めようとしないこと」

「うっ……」

「相手の動きを見て、避けられる攻撃は避ける。エリシアが調べている間は、勝手に仕掛けを触らない。約束できる?」

「……分かった!」

 ガルドは力強くうなずいた。

「本当に?」

「本当だ!」

「昨日も似たようなことを言っていた気がするけど……」

「今日は昨日より賢くなったぞ!」

「一日で?」

「おう!」

 セリナは思わず吹き出した。

 エリシアも口元を押さえて笑っている。

 しばらく笑い合ったあと、エリシアは改めて遺跡の地図を広げた。

「もうひとつ、分かったことがあります」

 二人が地図をのぞき込む。

「昨日の遺跡で見た紋様と、手持ちの文献を照らし合わせてみたんです。すると、この遺跡について記された古い記録が見つかりました」

「何て書いてあったんだ?」

「断片的な内容ですが……。どうやら、古代の技術を研究していた施設だった可能性が高いようです」

「古代の技術?」

「はい。魔力を利用して、武器や道具の性能を高める研究が行われていたのかもしれません」

 ガルドの目が輝いた。

「武器を強くできるのか!?」

「その可能性はあります。ただし、まだ確実ではありません。遺跡の奥にある装置を調べなければ、詳しいことは分からないと思います」

「……なるほどね」

 セリナは地図に視線を落とした。

「それなら、奥に進む前に装置の仕組みを調べる必要がありそうね。もし危険なものなら、下手に動かさないほうがいいわ」

「はい。まず石扉の仕掛けを調べます。その先に何があっても、焦らず確認しながら進みましょう」

「よし! それで決まりだな!」

 ガルドは勢いよく立ち上がった。

「準備はできた! いつでも行けるぞ!」

「明日の朝よ」

「……明日か」

「今日は買った道具の確認と、荷物の整理。それから、ちゃんと休むこと。いい?」

「分かった!」

 ガルドは元気よく返事をした。

 その直後、腹が小さく鳴った。

 セリナとエリシアが、そろってガルドを見る。

「……まだ食べるの?」

「いや、これは……」

 ガルドは少し考えた。

「明日の冒険に備えて、腹を空かせておくわけにはいかないだろ?」

「さっき、あれだけ食べたのに!?」

 セリナの声が広場に響いた。

 エリシアはとうとう我慢できず、声を上げて笑った。


 その日の夕方。

 三人は宿に戻り、翌日の荷物を最終確認した。

 回復薬、魔力補助の薬、予備の矢、照明道具、ロープ、食料。

 必要なものはすべて揃っている。

 エリシアは古文書の写しを丁寧にまとめ、セリナは弓と矢筒の状態を確かめた。

 ガルドも大剣の柄や留め具を確認し、荷物を背負って歩けるか試していた。

「よし、問題なし!」

 ガルドが満足そうに言った。

「これなら明日は大丈夫だな!」

「ええ。昨日よりは、ずっと準備が整ったと思うわ」

 セリナがうなずく。

「私も、もう少し資料を読み直しておきます。明日こそ、遺跡の秘密に近づけるはずですから」

 エリシアは古文書を胸に抱いた。

 窓の外では、夕日が街並みを赤く染めている。

 昨日は何も分からなかった石扉。

 その向こうに眠る古代の技術。

 そして、剣と獣が描かれた謎の紋様。

 まだ分からないことは多い。

 けれど、今度はただ未知の場所へ踏み込むだけではない。

 三人には、目的があり、準備があり、互いに任せられる役割がある。

「明日が楽しみだな!」

 ガルドが笑う。

「そうね。だからこそ、今日は早く寝ること」

「……分かった!」

 ガルドは元気よく答えた。

 そして、数秒後。

「ところで、夕飯は何だ?」

「もうっ!」

 セリナの声と、エリシアの笑い声が宿の部屋に響いた。

 翌朝、三人は再び古代遺跡へ向かう。

 今度こそ、その奥に隠された秘密を解き明かすために。

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この記事を書いた人

Web小説書いてます。最強・ファンタジー・冒険・ほのぼの・飯テロが好き。Xアカウントはこちら→

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